中国は世界の支配を夢見ているのか。そうだとする書籍『中国の静かな侵攻』と、そうではない可能性が高いとする書籍『中国の領土紛争』という2冊の新刊が登場した。真実は、いささか陰謀論的な前者と一見純真そうな後者、その中間のどこかに存在するのだろう。
米中貿易紛争に陰に隠れてしまっているが、オーストラリアも昨年から中国と本格的な貿易紛争を繰り広げている。中国はオーストラリア産のムギやワインに反ダンピング関税を課し、一時的にオーストラリア産牛肉の輸入を中止した。ロブスターの輸入も妨げた。理由は簡単だった。中国の湖北省武漢で最初に発生したコロナの起源について、オーストラリアが「国際調査をやろう」と主張したからだ。輸出全体の40%を中国に依存するオーストラリアが、ある種のオーストラリア版「THAAD(高高度防衛ミサイル)報復」に遭っているのだ。しかしオーストラリアは後に退かない。今年3月には中国をけん制する米国・日本・インド・オーストラリア4カ国の初の「クアッド」首脳会談まで開いた。経済を武器にして圧迫する中国に立ち向かっている。
オーストラリアはもともと、中国に立ち向かう国ではなかった。オーストラリアの融和的対中政策の基調を変えたきっかけの一つが、本書『中国の静かな侵攻』だ。英国サセックス大学で経済学の博士号を取った、オーストラリアの中国専門家クライブ・ハミルトン教授は、本書で「中国共産党はおよそ30年にわたって組織的に影響力拡大戦略を追求してきた」と主張している。2017年、最初に本書を出すことになっていたオーストラリアの出版社は、中国の抗議を恐れて契約を破棄した。紆余(うよ)曲折の末に別の出版社から本を出したハミルトン教授は、このように語る。「オーストラリアは復活する中華の朝貢国になるだろうと悟った」。当時のオーストラリアは、香港独立を支持したという理由で大学生が学校側から停学処分を受け、中国の政治家が「元の時代の13-14世紀ごろ、中国の探検家がオーストラリアを発見した」と発言しても異議を唱えない国だった。