そうなるだけの思想的変曲点は存在した。1980年代中盤、ソウル大学の講義室の机上にはプリントが1枚ずつ置かれていた。「自由主義打倒」「改良主義打倒」の檄文だった。韓国の自由民主主義制憲精神を打倒しようと、本格全体主義であるマルクス・レーニン主義および第三世界民族・民衆革命へと「運動」が急激に変わりつつあった。主導していたのは386世代(1990年代に30代で80年代に大学に通った60年代生まれの世代)のNL(民族解放)系列で、彼らの「運動」において自由主義は革命の敵と規定されていた。
一部では、こうした現象を左派独裁と呼ぶ。事実であるとするなら、それは386世代の一部のああした反自由主義千年王国(ミレナリアン)信仰と関連があるのだろう。ミレナリアン信仰とは、カールトン・カレッジ(米国ミネソタ州)のウォーラー・ニューウェル教授の著書『Tyranny:A New Interpretation』で使われた言葉だ。暴政・独裁・専制主義の中でもフランス革命期のジャコバン派の恐怖政治、ヒトラーのナチズム、スターリン主義、毛沢東思想、ポル・ポトの虐殺、イスラム原理主義テロは、現世の終末、最後の審判、救世主の出現、千年王国の到来といった主張が共通しているという。
西欧の啓蒙(けいもう)思想にルーツを有する近代の代議制民主主義は、ジョン・ロックの「けん制とバランス」、国家権力から自由な個人を重視する。英国名誉革命と米国独立革命がそれを実現した。しかしフランス革命は、1793-94年のジャコバン派の恐怖政治を頂点として、ジャン・ジャック・ルソーの独裁へと向かった。アンシャン・レジーム(旧体制)を打倒し、純粋な民衆ユートピア(理想郷)をつくろうと思ったら、自由主義、個人主義、物質主義、不純物を無慈悲に粛清しなければならないという。そうしてこそ千年王国の敵、すなわち貴族・ブルジョワ・帝国主義・資本主義・ユダヤ人・クラーク(ロシアの富農)など「積弊」を清算できるという。