誕生から40年、孫悟空のパワーは相変わらず…世界を揺さぶり続ける「ドラゴンボール」(後編)

■なぜ「ドラゴンボール」に歓呼するのか

 普通の少年漫画は、主人公の見た目が変わらない。読者が反発する可能性、失敗の確率が高いからだ。しかし「ドラゴンボール」は、登場人物の変身(少年→大人)が完璧な成功を収めたまれなケースだ。そうすることでキャラクターの魅力がさらに強化されたという。孫悟空のライバルとして登場するベジータ、フリーザ、セル、魔人ブウなどの悪党すら、ファンダム(熱狂的なファン集団)を形成した。この中でも原作者が挙げる「最愛のキャラクター」は、巨大なバッタのようにも見える、善悪が共存している「ピッコロ大魔王」。ただし、鳥山明は「実は絵には大して気合を込めていなかった」と、明かしたことがある。「動きの表現に重点を置くので、絵そのものには意識的に、それほど執着しませんでした。おかげでスピード感を生かせたんじゃないでしょうか?」

 冷静に評するなら、この漫画は結局、空虚に刃を打ち合う戦いの物語だ。しかし、『ドラゴンボールのマンガ学』の著書、見崎鉄さん(59)は、ここに哲学者ニーチェが語る「力への意志」を見いだす。孫悟空と仲間たちは、毎日競っている。今よりもっと強くなるために。それが全てだ。「地球を守るだとか正義のためにといった『大きな物語』ではなく、家族や友人を守るという『小さな物語』でもなく、他人の同意などには関心もない、ひたすら自分という『最も小さな物語』として進みます…ドラゴンボールが、時代に取り残された古いものにならない理由の一つがここにあるのかもしれません」。ニーチェが強調する「私を殺さぬものは私をいっそう強くするのみ(Was mich nicht umbringt, macht mich staerker.)」という宣言は、漫画的設定からも見いだせる。瀕死(ひんし)の状態から回復すると、はるかに強い存在に変わる登場人物。この劇的な快感が両親の財布と、書店と、文房具を揺るがしたのだ。

■大谷の「ドラゴンボール」活用術

 2024年5月、岸田文雄首相(当時)がフランスを訪問したとき持参したプレゼントが、まさに「ドラゴンボール」のこけしだった。世界的な漫画は親善外交にも愛用される。米大リーグを制覇した大谷翔平選手も、やはり同じ。2024年3月に「日刊スポーツ」は「大谷はロサンゼルス・エンゼルス時代にヘンドリクス投手やエステベス投手などと『ドラゴンボール』の話題で友好関係を深めた」「世界的に有名な漫画で選手らとの交流のきっかけをつくった」と報じた。2024年ドジャースに移籍した後も、大谷選手の提案で一部の選手が安打や進塁時に、「ドラゴンボール」に出てくる「フュージョン」のポーズを取ることもあった。トラビス・スミス・コーチは、このポーズを「DBZ」と名付けた。

 特に、黒人の間で意外な人気を集めている。面白いからであるのは確かだが、異邦人の孫悟空がもろもろの苦難に打ち勝って地球最強へと発展していくストーリーを黒人の歴史として読み替えているケースが多いからだ。有名ヒップホップグループ「ウータン・クラン」のリーダー、RZAは、2009年に著書『The Tao of Wu』でこのように明かした。「『ドラゴンボール』は最も奥深い漫画の一つです。(中略)私にとっては、アフリカ系米国人の旅の象徴です。孫悟空は、遠くの惑星から来たサイヤ人の一員で、銀河系で最も勇猛な戦士の種族だったという事実を知ることになります。そんなある日、自分の限界を超えるプレッシャーの中で『スーパーサイヤ人』に変身します」。今もヒップホップの領域で「ドラゴンボール」関連のラップの歌詞が出続けている理由はここにある。

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