パラオは国内総生産(GDP)の40%以上を観光業に依存しています。天の恵みといえる海底環境を持っており、シュノーケリング、ダイビングの聖地に挙げられます。かつては日本人・台湾人観光客が多数でしたが、08年から中国人観光客が大幅に増えました。15年にはその数は9万1000人にまで跳ね上がり、全体の半数以上を占めました。中国の不動産開発業者も押し寄せ、ホテルなどを建てたといいます。
■台湾との断交を拒否すると団体観光禁止令
パラオに対する経済的影響力が大きくなると、中国はレメンゲサウ大統領の在任中から「台湾と断交せよ」と要求してきました。しかしレメンゲサウ大統領は「パラオの民主主義的理想は、台湾の方に近い」として拒否したといいます。
すると17年、中国はパラオへの団体観光を禁止するなどの圧迫作戦に入りました。THAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を理由に韓国への団体観光を制限したのと同じ時期です。17年、パラオを訪問した中国人観光客の数は5万5000人に減少し、20年には3300人にまで減りました。18年にはパラオの日刊紙「ティア・ベラウ(Tia Belau)」と協力してメディアグループを作るプロジェクトを推進しましたが、このプロジェクトの背後には中国軍と公安(警察)がいたといいます。
中国は今回の大統領選挙を前に、ウィップス大統領を落選させるためさまざまな手段を動員しました。昨年12月に中国の麻薬密売団が関与した中国人同士の殺人事件が発生すると、この事件を口実に今年6月、パラオ旅行に関する安全注意報を出しました。今年3月にはパラオ政府電算網のハッキング事件が起き、政府の文書2万件が盗まれましたが、パラオ政府は中国をこの事件の黒幕とにらんでいます。
■中国の圧迫に対抗して米軍基地を誘致
パラオは小国ですが、外交・安全保障問題では断固とした対応をします。12年に中国漁船が自国の海域で違法操業した上、取り締まりを避けて逃げると、海洋警察が銃撃を加えて中国の漁民1人が死亡する事件がありました。20年12月には違法にナマコを獲っていた中国漁船1隻と船員28人を摘発しました。操業用の小型ボート6隻や漁具などを押収し、収穫したナマコを全て海に捨てさせた後、追放しました。
中国の圧迫に対抗し、米軍基地の誘致にも積極的です。レメンゲサウは大統領在任中の2020年、米国に対しパラオ内での軍事基地建設を提案しました。米国はこの提案を受け入れ、第2次大戦の激戦地ペリリュー島の古い滑走路を補修し、海軍の軍艦が入れるように港も整備中です。長距離レーダー基地も構築中です。パラオは中国の攻勢に伴う安全保障上の不安を解決し、米国は台湾海峡有事に備えて後方に海軍・空軍基地を確保できる、という点で互いの利害が一致しているのです。ウィップス大統領も「駐屯がすなわち抑止力(Presence is deterrence)」だとして、米軍の駐屯を積極的に支持しています。
崔有植(チェ・ユシク)記者