原発に代わるガス火力発電所を大挙建設したことも問題です。昨年時点で発電量全体の44.1%をガス火力発電所が占めました。台湾は天然ガスの97%を輸入に依存しています。ウクライナ戦争勃発以降、ドイツが体験したように、ガスの国際価格高騰と供給難のリスクにまともにさらされたのです。 ガス価格の上昇に伴い、台湾電力の赤字が累積し、今年は大口の産業用電気料金を15%引き上げざるを得ませんでした。温室効果ガス排出量もほとんど減っておらず、2050年のカーボンニュートラル(炭素中立)目標の達成は難しいといいます。
脱原発が始まってから、台湾は慢性的な電力難に苦しんでいます。数百万世帯が被害を受けた大規模な停電が4回も発生しました。今年6月にもエヌビディアやフォックスコンなどが入居している台北の内湖科学園区一帯で停電が起きました。今年第2四半期(4~6月)の停電発生件数は前年同期比で43.3%も増加しました。
■米AIT代表「TSMCは電力難で米国に投資」
脱原発が完了する来年になると、台湾の電力難はさらに深刻化しそうです。台湾電力の曽文生会長は「台湾はエネルギー需給において大きな試練に直面した。向こう3年間が大きなヤマ場で、夜間の供給予備率が7~8%まで低下する可能性がある」と述べました。供給予備率が10%を下回れば、停電発生の可能性が高まります。
台湾の電力不足は国際的な失笑を買っています。米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)の新代表は10月末、ユーチューブでの対談で、「TSMCの米国投資で台湾半導体産業が空洞化するのではないかという懸念がある」との質問が受けると、「TSMCが米国に工場を建設するのは、米国が圧力をかけたからではない。台湾の電力と労働力、水資源、特に再生可能エネルギーが不足し、企業が自ら半導体需要の拡大に対応するため、対米投資を選択した」と指摘しました。エヌビディアのジェンスン・フアン(黄仁勲)最高経営責任者(CEO)も「AI需要が爆発する状況で、台湾の電力難は確かに大きなチャレンジ課題だ」と発言しました。
■原子力専門人材、6年間で26%減
8年間続いた脱原発政策で原発産業の生態系が崩れ、専門人材が大量流出したことも悩みの種です。政策見直しを決めたとしても、原発再稼働までは5年近い時間がかかることを意味します。
台湾電力原発事業部の人員は2018年の2529人から今年4月の1871人へと26%減りました。残る技術者も高齢者が中心です。研究人材を教育する国立清華大学の工程システム学部では原子力専攻者が1学年で10人ほどにすぎないそうです。彼らでさえも卒業後は原発が注目を浴びる米国などに留学するということです。台湾政府は小型モジュール原発(SMR)など未来の新技術に積極的に対応したいと言っていますが、どんな人材でやっていくのかというのかという批判が相次いでいます。
崔有植(チェ・ユシク)記者