福島原発事故以降、ドイツとともに脱原発に踏み切った台湾が頼清徳新政権発足後、「脱・脱原発」を模索しています。人工知能(AI)ブームと半導体好況で電力需要が急増する中、原発なしで持ちこたえることが容易でなくなったからです。
台湾は韓国のように製造業中心の産業構造を持ち、貿易依存度が高く、安定的な電力供給が重要です。世界的にも原発は炭素を排出せず、経済性にも優れたクリーンエネルギーとされています。
台湾の卓栄泰行政院長(首相)は10月29日、立法院(議会)での答弁で「政府も国際的な傾向変化を知らないわけではない」とし、「未来の新たな原発技術についてはオープンな姿勢で議論する」と述べました。ただ、これまでの脱原発政策に基づき、来年までに予定されている原発閉鎖は予定通り進めると説明しました。脱原発は蔡英文前総統の時代から与党民進党の看板政策だっただけに、政治的にそれを覆すのは容易ではないとみられます。脱・脱原発には党内合意が必要となりますが、依然として反対が少なくないといいます。
■AIで電力需要が毎年3️%増加
頼清徳総統は今年5月に就任して以来、脱原発政策の変化を示唆してきました。国家気候変遷対策委員会を設置し、電子メーカーの和碩聯合科技(ペガトロン・グループ)の童子賢会長ら原発再稼働を主張する人物を多数迎え入れました。卓行政院長も7月末、日本経済新聞のインタビューに対し、AIや半導体産業に必要な電力需要に対応するため、2030年原発再稼働問題について話し合っていくという趣旨で発言しました。
企業経営者出身の郭智輝経済部長(経済相)も今年6月、立法院で「毎年電力需要が2.7%程度増加すると予想していたが、事情が変わった」とし、「AI産業の爆発的な成長で今後10年間、毎年電力需要が3%以上増加するだろう」と述べました。ただ、脱原発政策の中止については「経済部は執行機関に過ぎず、立法院が決めることだ」として言及を避けました。党内のコンセンサスが必要だという意味です。
台湾は脱原発政策を受け、2018年から昨年にかけ計4基の原発を閉鎖しました。今年7月には第3原発1号機の稼働が停止し、来年5月には2号機も閉鎖します。第4原発は2021年の国民投票で商業発電計画が否決され、工事が90%以上進んだ事態で中断されました。来年には事実上脱原発が完了します。
■4-6月の停電、前年比43%増
脱原発が始まる前、台湾の発電量に占める原発の割合は約12%程度でした。それが昨年には6.3%に低下し、今年はさらに3%まで下がります。来年はゼロとなるでしょう。
蔡英文政権は2025年に脱原発を完了し、電力構成を石炭・ガス火力発電80%、風力・太陽光など再生可能エネルギー20%に再編する計画でした。しかし、昨年時点で再生可能エネルギーの割合はわずか9.5%でした。来年までに20%に増やすことは事実上不可能になりました。韓国のように国土が狭く、風力、太陽光など再生可能エネルギー資源には限界があるのです。