理工系敬遠現象で人材枯渇、韓国社会20年分のツケを払わされるサムスン電子

 役員や社員は本気を出さずにいる。研究開発分野の同社役員は「過去には問題が生じれば、それをどうやって解決するかに力を注いだが、最近はそれが誰の過ちかを質し、責任を問うことの方に集中している。そのせいで部門間の利己主義も大きくなった」と打ち明けた。

 2016年の国政介入事件を発端とした「司法リスク」もサムスンの足を引っ張った。経営権継承問題で総帥である李在鎔(イ・ジェヨン)会長が逮捕され、353日間の収監、執行猶予による釈放、207日間の再収監、仮釈放と続いた。李在鎔会長は今もサムスングループの不正な合併や粉飾会計事件で二審の裁判に出廷している。

 歴代政権は司法リスクを抱え込んだサムスンに大規模な投資と採用などを要求し、それが現在のサムスンにが大きな「ツケ」として残っている。2019年に「総合半導体強国」を目標に掲げた文在寅(ムン・ジェイン)大統領の訪問に合わせ、サムスンが慌てて発表した「2030年システム半導体1位」という目標は、ライバルである台湾積体電路製造(TSMC)を強く刺激し、結果として同社の大規模投資を招き、サムスンは競争でより不利な立場に置かれたとの分析もある。

 「超一流サムスン」というプライドと組織文化も緩んだ。ある研究開発部門の社員は「夜勤をすれば、翌日遅めに出勤しないと、(労働時間の)週52時間上限制を満たせなくなるので仕事が進まず、会社もMZ世代(ミレニアル世代とZ世代)の社員の顔色を過度にうかがう」と話した。別の社員は「事業部の実績さえ良ければ、年収に大きな差はないので、熱心に仕事をせず、(会社に)タダ乗りして、福利厚生だけを享受する人が多い」と話した。

■TSMCは「李健熙精神」でサムスンを超えた

 サムスンが揺らぐ間、最大のライバルであるTSMCは「李健熙精神」で武装して突っ走り、2021年には時価総額でサムスンを追い越した。TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏(93)は、李健熙会長がサムスン電子の経営権を受け継いだ1987年に会社を設立した。李会長との親交があり、韓国でサムスンの半導体工場を視察した張氏は李健熙会長から「メモリーをやるには資本と人材が多く必要だ」との説明を受け、メモリー事業構想を断念し、ファウンドリーに専念した。業界が要約する張氏の「スケールアップ(規模拡大)」「危機突破」「先制的投資」などの経営哲学は李健熙会長のスタイルにそっくりだ。ある大企業の役員は「韓国財界で創業者精神が薄れる中で、創業者精神で武装した台湾と中国の企業がものすごい勢いで韓国を追い越している」と指摘した。

朴淳燦(パク・スンチャン)記者、柳智漢(ユ・ジハン)記者

【写真】サムスン創業家が抱える遺伝病「シャルコー・マリー・トゥース病」 韓国研究陣が原因と治療法を世界初の発見

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  • ▲サムスン電子華城半導体工場の内部/同社提供

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