最後に、対北抑止が失敗した場合に独自核武装は韓国国民の生命と安全を守る上でどれほど有用なのだろうか? 北朝鮮が、他のあらゆる核武装国と本質的に異なっている点は、抑止が失敗して核兵器を実際に使用する蓋然性があるというところだ。北朝鮮の政権が、核を使用しなくてもどのみち滅んでしまう危機に到達したら、核の使用で失うものは無くなり。その瞬間、抑止の失敗は防げなくなる。ところが、北朝鮮の核攻撃が迫っても、文明国家は核兵器を先制使用できないという致命的弱点を抱えている。北朝鮮の核先制攻撃で大規模な死傷者が発生した後、反撃報復にのみ使用する核兵器であれば、せいぜい「出し遅れの証文」に過ぎない。独自核武装は、米国が過剰に保有している「出し遅れの証文」を万一使用しない可能性に備えて、それより効果の劣る国産の「出し遅れの証文」を二重に作っておこう-という発想だ。「出し遅れの証文」の重複製造が、北朝鮮の核ミサイルを発射直前に除去し、飛んでくる核ミサイルを迎撃するアセット(軍事資産)を拡充するよりも、韓国国民の生命と安全を守る上で一層内実ある投資になり得るだろうか?
米国はワシントンやニューヨークを犠牲にするリスクを冒してまで対北反撃報復に乗り出したりはしないだろう、という懸念は杞憂(きゆう)に過ぎない。米国が中国やロシアに対して有している圧倒的な戦略的優位は、世界にまたがる同盟体制から来ている。もし韓国が北朝鮮の核先制攻撃を受けたにもかかわらず、米国が反撃報復に失敗したら、米国の拡大抑止に依存する全ての同盟体制は一挙に崩壊する。北朝鮮の核報復が怖くて米国が同盟体制を放棄するというのは、想像し得ることだろうか。北朝鮮が核でソウルを攻撃したら、15万の米国人の中からも多数の死傷者が出ることは避けられないのに、米国がこれを黙って見過ごすことができるだろうか。
核武装のためには、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理施設が必要だ。核武装の話をする前に、韓米原子力協定が規制していない平和的濃縮技術の確保に着手する方が急務だ。核武装するかどうかは、濃縮施設を建設した後に話し合っても遅くはない。
千英宇(チョン・ヨンウ)元大統領府外交安保首席・韓半島未来フォーラム理事長