ヒディンク監督の本当の能力はサッカーの本質を追究することにあった。W杯は競争ではなくもはや戦争だ。その目的は勝利であり、それこそが本質だ。ヒディンク監督は礼儀正しい韓国選手には闘志をむき出しにして戦うよう求めた。時には限界も超えた。誤報を出したジャーナリストは意図的に公開の場で非難し侮辱した。そのおかげもありチームはさらに一体となった。李天秀(イ・チョンス)は「ヒディンク監督を一言で表現すれば毒蛇だ。蛇のように知恵があり冷静だった。人間があれほど冷たくなれるかと思うと鳥肌が立つこともあった。人間性の底の底まで選手を把握し接し方を判断した」と評し、崔真喆(チェ・ジンチョル)は「彼は冷静な心理学者であり、毒蛇のような勝負師だった」と説明した。その厳しさは韓国サッカーを無敵に育て上げた。
ヒディンク監督のサッカーは単なるサッカーではなく、韓国人にとって夢そのものだった。アジア通貨危機は韓国の成長神話を崩壊させた。韓国人のプライドは崩壊し、敗北感が広がった。しかしヒディンク監督のサッカーを見て韓国人は狂ったように声を上げ、泣き、笑い、限りない幸福感に満たされた。国全体で「俺たちもできる」という自信、反転のエネルギーが溶岩のようにあふれ出した。サッカーを変えてほしかったのに、韓国社会と歴史まで変えてしまった。世界国家・大韓民国という21世紀の歴史的進路がその時に定まった。
W杯に出場する韓国代表の監督を巡り韓国のサッカー界は今まさに泥沼状態となっている。韓国サッカーは退化しており、韓国政治はもっと深刻だ。進歩陣営は犯罪者を「有能な人間」と称賛し、うそを「代案的思考」と呼ぶ。保守陣営は無能で、分裂し、幼稚になった。大韓民国には世界最高の国となる潜在力は十分にある。ヒディンク監督がその事実を証明した。2002年のW杯でベスト16進出が決まった時、韓国国民はすでに満足感に満たされていたが、ヒディンク監督は「私はまだ足りない。もっと突き進んでいく」と選手たちにげきを飛ばした。彼は最初から優勝を夢見ていた。夢は私たちの中の能力への予感だ。しかし今の韓国サッカー、韓国政府は夢が枯れてしまった。国民に霊感を吹き込み、その力を一つにして偉大な歴史が切り開かれたあの時が懐かしい。私たち国民は今その夢を渇望している。
金永寿(キム・ヨンス)嶺南大学教授・政治学
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