韓国の大手企業A社の社員は、50代になっても役員やチーム長(部長などに相当)に昇進できなかった万年次長クラスを「エルダー(elder、年長者)」と呼ぶ。役員やチーム長を意味する「リーダー」にちなんだ表現だ。同社のチーム長クラスであるLさん(46)は「十数年前までは昇進に漏れた先輩社員がコンビニやチキン店を開業したり、納品業者を設立したりして、『第2の人生』を模索していたが、最近は定年まで耐えている」と話した。
【グラフィック】韓国50代起業数とサラリーマン平均勤続年数の推移
年は取っているが、職級が低いエルダーたちへの対応は職種によって異なる。事務職では40代後半の「リーダー」が50代「エルダー」に会計書類の検討など単純な業務を任せる方式で新しいトレンドに適応している。一方、上下関係が厳しい生産職では気まずい状況を少なくするため、エルダーたちを集めて品質検収などを担当する別のチームをつくっている。
引退を控えて起業に挑戦するよりも、会社の垣根から出ないことを選ぶ50代の会社員が増えている。現在60代になった第1次ベビーブーム世代(1955~1963年生まれ)が50代だった当時、万年次長·部長生活をやめ、コンビニなどを開業したのとは異なり、現在50代の第2次ベビーブーム世代(1964~1974年生まれ)は会社の外で地獄を味わった先輩たちの姿を学習し、年下の上司の下で職場生活を続けている。
韓国の統計庁と中小ベンチャー企業部によれば、正規職賃金労働者の平均勤続年数は昨年時点で98カ月となり、2004年の統計開始以来最長となった。平均勤続年数は第1次ベビーブーム世代の引退が始まった2015年には88カ月だったが、8年間で10カ月延びた。勤続年数が延びたことは、50代による起業が減ったこととも符合する。統計庁によれば、昨年個人事業主や法人の形態で新たに事業所を設けた50代は26万2877人で、2021年から3年連続で減少している。関連統計を取り始めた2016年(28万9138人)以降で最少だ。起業者全体に占める50代の割合も昨年は過去最低の21.2%だった。少額の資金で起業が可能なインターネット通販、個人メディアなどが増えたことで、20代の割合は13.7%、30代は25.0%で過去最高となった。
■「会社は戦場、外は地獄」
IT系大企業で部長として勤続20年を迎えたKさん(47)は「定年退職する先輩社員がどっと増えた」と話した。10年前までは定年退職の公示は年に1、2回で、定年退職者数も1桁にとどまっていたが、最近は月に約10人ずつ定年退職者が掲示されるという。Kさんは「起業した先輩に会うと、『会社の中は戦場だが、会社の外は地獄』だというネットコミック『未生 ミセン』の台詞を引き合いに、起業をやめるよう説得される。先輩たちの説教は40~50代の同僚が会社で持ちこたえる原動力になっている」と話した。