朝鮮王朝時代には発酵させて生物兵器化…北の汚物風船に見る「人糞攻撃」の歴史(上)

朝鮮王朝時代には発酵させて生物兵器化…北の汚物風船に見る「人糞攻撃」の歴史(上)

 ミサイルでもなく、核兵器でもない。南と北に分かれた地の緊張感が、ずっしりした「うんこ」となり、空に舞い上がった。北朝鮮が送った汚物風船は、休戦ラインを越えて南に上陸した。春川や全羅北道、慶尚南道・慶尚北道など韓国各地778カ所に落ちた汚物風船は、車のガラスを割り、どこかの家の庭にも落ちた。これは何たるピョン(韓国語で“変”または“便”)か!

韓国国会で人糞がぶちまけられた「事件」を報じた新聞記事(1966年)

 誰もが毎日向き合っているうんこだが、北朝鮮が炭疽(たんそ)や天然痘、ペスト、コレラ、ボツリヌスといった生物兵器を培養・生産しているという事実と合わさることで「風船を用いた生物化学攻撃」に対する恐怖に変わった。韓国ギャラップのアンケート調査によると、北朝鮮の対南汚物風船の散布は「脅威」だという回答は60%にもなった。実質的脅威にはならない。国家安保戦略研究院は「汚物風船で投下された物件の中で生物化学攻撃の媒介体は“糞便(ふんべん)”だろう」としつつも「風向きや風速など環境的要素を考慮すると、可能性は低い」と分析した。

 人間が生み出し、自分の力でひり出す最初の生産物たるうんこ。誰もが排出していくが、悪臭と毒性を持つ「それ」は、人類史の最も元祖的な嫌悪物かつ精神武装を一挙に揺るがしかねない強力な武器として使用されてきた。

■朝鮮王朝版生物化学兵器

 歴史的に、人間は糞便を避け、嫌悪してきた。糞便が食中毒やコレラ、腸チフスの伝染の媒介体であるという科学的事実を知る前から、人間は糞便を嫌悪し、避けることで健康を守ってきた。「生存」のためなのであった。

 飲食物を消化した残りかすである糞便は、戦争においても光を放つほどに攻撃性を持つ兵器だった。朝鮮王朝時代、外敵の侵入が頻繫にある国境地帯で使用できる郷土防衛戦術・戦略について記述した丁若鏞(チョン・ヤギョン)の『民堡議』では、竹の筒に詰めた糞便を撃つ「糞砲」についての説明が出てくる。文字通り「うんこの大砲」。身体に傷を負った倭兵は傷に入り込んだ糞毒で死に、身体が健康な倭兵も糞便を浴びせられた後は戦意を失う、というものだった。糞便を利用した攻撃は朝鮮王朝後期の学者・宋奎斌(ソン・ギュビン)が書いた『風泉遺響』にも見いだされる。攻撃方法はさらに毒々しい。糞便を集めて1年ほど寝かせた「金汁」を攻撃の道具として使用するからだ。恐るべき悪臭と毒性を持つ朝鮮王朝版生物化学兵器というわけだった。

 韓国だけではない。ベトナム戦争では、竹やりで作ったトラップを仕掛けた。この竹やりには植物の毒や人糞を塗った。竹やりで刺し傷を負っただけで細菌に感染するようにしたのだ。ベトナムの兵士たちの糞便を塗った竹やりに対応するため、米軍はジャングルに、サルの糞便に似た見た目の送信機を仕掛けた。ベトナムの兵士たちの目を欺きつつ、振動を感知して移動ルートを把握するためだった。糞便攻撃を受けて、糞便に似せる技術で勝負しようとした米国は、直接糞便を塗り付けるベトナムに敗北した。

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