今年2月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が北朝鮮を批判した直後、ロシア外務省のザハロワ報道官は「ぞっとする」と批判したが、これは絶対に黙認すべきでない。尹大統領は「北朝鮮政権は全世界で唯一、核兵器の先制使用を法制化した非理性的な集団だ」と述べたのだが、これにロシアは「明らかに偏向している」と反論したのだ。これはロシア外務次官の来韓中にロシア・メディアが報じた内容だが、事前にプーチン大統領の指示あるいは黙認がなかったらこんな発言はできなかっただろう。プーチン大統領はモスクワで北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相に訪朝を約束したが、ザハロワ報道官による尹大統領批判は「訪朝を約束したプーチン大統領が金正恩総書記に代わって韓国に抗議した」とも受け取れるものだった。
尹大統領による北朝鮮批判にいわばロシア外務省の報道官が反論したわけだが、これは単なる外交面での非礼にとどまらない。今後北朝鮮が何か事を起こした場合、ロシアはこれに同調することを明確にしたのだ。北朝鮮とロシアの軍事協力がさらに緊密化し、韓半島を危険な状況に追い込むというシグナルとも受け取るべきだ。ところが韓国政府は「常日頃やや過激な発言をする女性外交官だ。無視してもよい」「ロシアとは水面下で互いに一線を越えないことで話はついている」とコメントし、深刻には受け取っていない様子だった。
しかし結果的にロシアが国連の北朝鮮制裁パネルを無力化したことで、ロシアと北朝鮮との関係はさらにレベルアップした。この問題は非常に深刻だったため、韓国政府も2日に異例の対抗措置に乗り出し、北朝鮮とロシアの間で軍事物資を運搬したロシア船籍の貨物船2隻、そして北朝鮮労働者の送り返しに関与したロシアの2機関と2人の個人を独自制裁の対象に指定した。
韓国外交部(省に相当)による今回のロシアへの対応が消極的だった背景には「ロシア・フォビア(恐怖症)」の存在がある。20年以上前に韓国では2人の外交部長官がロシアとの外交問題が原因で更迭された。1998年に当時の朴定洙(パク・チョンス)外交部長官は韓国とロシアによる互いのスパイ追放事件の影響で更迭された。また2001年には韓ロ首脳会談の共同声明に「米国が破棄を主張した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の維持・強化の文言があった」との理由で当時の李廷彬(イ・ジョンビン)外交部長官が辞任に追い込まれた。韓国とロシアの対立でロシア担当局長が突然更迭されるケースもあった。そのため韓国外交部ではロシアに対して可能な限り対応や対立を避ける雰囲気が強くなっているのだ。