「選手たちも人間だ」(サッカー韓国代表の主将ソン・フンミン)。ミスもするし判断を誤ることもある。しかも血気盛んな年ごろだ。韓国代表として招集されれば自動的にワンチーム精神があふれ出す、と期待するのは楽観的すぎる。彼らが一糸乱れず組織の論理に盲従すればいいのかもしれないが、現実は容易ではない。サッカー界ではよく知られた話だが、2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会のときも、主力選手らの間で激しい摩擦や衝突があったという。決勝トーナメント進出という目標を達成したため、その内幕が明らかにされなかっただけだ。
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今回のアジアカップは違った。この「黄金世代」を集めておきながら、W杯でもなくアジアカップで優勝すらできないのかという失望。以前から批判されっぱなしだった監督。世論が沸き立っていても遠くの山を見つめるだけのサッカー協会。ここに「後輩選手による下剋上」という燃え盛る火種が投げ込まれ、四方から激しい炎が上がってしまった。
スーパープレーヤーが集まったからといって、スーパーチームができるわけではない。全てに言えるわけではないが、スポーツ界では「ケミ(ケミストリー、相乗効果)」の力を信じる人が多い。チームの中に、説明できない精神的一体感・きずなが生まれれば、ピンチを乗り越えることができ、戦力は最大化され、「大会最後の試合」で勝つことができる、という考え方だ。つまり「ケミ」の力があってこそ優勝を成し遂げられるという共通認識があるのだ。「チームの『ケミ』とは、選手たちが互いをケアすることです。選手たちはレーシングカーではありません。チームメートに対する感情はどうしても生まれるし、そのような感情は競技力に影響を及ぼします」(米国の元プロ野球選手、ジョニー・ゴームズ氏)
「ケミ」を引き出す責務は、最終的には監督にあると考える。こうしたことに長けている指導者は「名将」と呼ばれることが多い。クリンスマン監督が状況に合わせて変幻自在な戦術を駆使する「智将」でないことは、誰もが分かっていたようだ。それならばせめて、カリスマ性を発揮して内部の摩擦を解消し、「ケミ」を融合するという戦術以外の力を持った「徳将」や「勇将」であればよかったのだが、今思うとそのような力も持ち合わせていなかった。
選手たちが監督に対し、特定の選手を外すよう要求していたということは、選手たちがいかに監督を舐めていたかということだろう。こんな度を越した振る舞いがあったということは、監督の権威が地に落ちていたという証拠だ。あるサッカー界の重鎮は、「ヒディンク監督のときには想像もできなかったこと」と話した。後輩が先輩を尊重し、先輩は後輩を気にかけ、選手は監督を尊敬し、監督は選手を激励・後押しするとき、チームの「ケミ」は最高潮に達する。今振り返ってみると、今回のアジアカップの韓国代表は穴だらけの船で長い航海に出たようなものだった。途中で座礁しても全くおかしくなかったのだ。