本書に「二刀流」という記述は出てこない。ユニコーン(大谷のニックネーム)の生態が分からないように、大谷の才能も説明不可能なのだ。ただ、他とは違う面持ちを物語るエピソードがぎっしりと散りばめられている。高校時代、宿舎のトイレを掃除しながらも、一言の文句も言わなかったという逸話は、謙遜で感情をあまり表に出さない性格を垣間見せてくれる。「この世の頂点に上り詰める選手なら、一番下のこともしてみなければならない」とトイレ掃除を任せた人物が、大谷にマンダラート(一つの目標に八つの実践課題を設定する自己鍛錬法)を教えた佐々木洋監督だ。
エンゼルス入団初期、垂直跳びのテストで平凡な結果に終わっていた大谷は、ユーチューブを見ながら身に付けた跳び方で、1カ月でチーム最高水準にまでのし上がった。跳躍が5、6センチ伸びても大きな進歩だが、大谷は23センチもアップしたという。試合が終わってからしばらくしても、ロッカールームのビリヤード台で勝負に没頭する大谷を見て、ジョー・マドン監督は前書きに次のようにつづった。「常に自身を磨き、競争そのものを純粋に楽しんでいる人、それが翔平だ」
■他人に夢を見させる開拓者
「もっと多くの人が野球を見て、野球を好きになってほしい」。2018年シーズンにエンゼルスの本拠地を訪れた日本人観光客は、直前の2年間に比べて4%増えた。大谷が先発する試合は他の試合に比べて観客が5000-6000人増える。大谷は現状に決して満足せず、野球を変えているのだ。著者は大谷以降、大リーグの球団が投打二刀流の可能性を再考し始めたと話す。珍しいが大谷のように二刀流を試みる選手たちのプレーに再びスポットライトが当てられ、大谷の成功はさまざまなポジションを消化しようとする若い選手たちの模範となっている。
大谷は9月に2度目の肘の手術を受けた。執刀医の見解のように、彼が2025年に再び投手と打者としてプレーできるかどうか、今シーズンが終わってFA(自由契約選手)の資格を得る彼がエンゼルスに残るかどうかは、今のところ分かっていない。しかし、一つだけ確かなことがある。大谷の「偉大なシーズン」は通念に挑戦する開拓者が歴史をつくり、他の人々に夢を見させる現場だったということだ。368ページ、1万9800ウォン(約2280円)。
チェ・ミンギ記者