周辺国を中華秩序の下で服属させようとする習近平体制の本質を文前大統領は直視できなかった。人類の普遍的価値に反する権威主義独裁に対し、「民主・法治」を云々し、帝国主義的膨張欲求を込めた「中国夢」に参加すると言った。歴史展開の方向性を十分に把握できなかったのだ。称賛の言葉を吐いたが、文前大統領の親中告白は効果がなかった。韓国に対する中国の傲慢と冷遇は、文政権の5年間続いた。
先日訪日した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の慶応大での演説には「過去」が登場しない。日帝による侵奪や徴用工問題には一言も言及せず、10分余りの演説で淡々と「未来」についてのみ語った。
「皆さん、未来世代がまさに韓日両国の未来だという点を強調したいと思います。皆さんが未来を考え、韓国の若者たちと積極的に意思疎通していくことを期待します。(中略)皆さんも私も良い友だちをつくり、より良い未来をつくり出すためにもう少し勇気を出しましょう」
尹大統領が言った「未来」は自由民主主義に結びついている。69年前、ニューヨークで演説した李承晩のように、尹大統領も「人類の普遍的価値を共有する両国が未来に向かうことが北東アジアを超え、世界に寄与することだ」と話した。
「韓国と日本が自由、人権、法治という普遍的価値に基づいた自由民主主義国家であること自体が特別な意味を持っています。(中略)私は普遍的価値を共有する韓日が関係改善と発展のために共に努力することこそ両国の共同利益、そして世界平和と繁栄にとって非常に重要だと思います」
日本に「過去」を問い詰めなかったことが韓国国内で批判を呼んだ。尹大統領が正しかったのか間違っていたのかは、今後の韓日関係が物語るだろう。一国の心を動かすには、国内的特殊性よりも普遍的な論理に訴える方が力がある。韓日が普遍的価値で連帯することが世界に寄与することだという尹大統領の言葉は本気だろう。その真実性が日本国民に伝われば「大きな譲歩」は成功を収めるだろう。
朴正薫(パク・チョンフン)論説室長