【独自】「趙瑪利亜が息子・安重根に送った『手紙』は日本人僧侶の作り物だった」(上)

都珍淳教授の未発表論文「趙瑪利亜の手紙、操作と実体」で明かされた内容

 安重根(アン・ジュングン)=1879-1910=の義挙を題材とし、2022年12月に封切りされた映画『英雄』。この作品で観客が大いに感動させられたところといえば、結末で安重根の母親・趙瑪利亜(チョ・マリア)=1862-1927=が登場する場面でしょう。趙瑪利亜は監獄にいる息子・安重根にハングルで書いた手紙を送り「命乞いをせず大義のために死ぬべき」と激励し、寿衣(死に装束)を届けます。女優ナ・ムニの熱演と、「私の息子、私の愛するドマ(安重根の洗礼名トマスの当て字)」で始まるミュージカルナンバー(挿入歌)がこの場面を一段と悲壮なものにしています。

【写真】『わが心の安重根』著者、大林寺住職・斎藤泰彦氏

 文章の順序や一部表現の差はありますが、その手紙の内容は、これまでさまざまな書籍やメディアを通して伝えられ、韓国ではよく知られています。それが次の(a)です。〈これより、資料を(a)と(b)に区分します〉

(a)「おまえがもし、老いた母より先に死ぬことを不孝と考えるのであれば、この母は笑い者になるだろう。おまえの死はおまえ一人のものではなく、朝鮮人全体の公憤を背負っているのだ。おまえが控訴をしたら、それは日帝に命乞いをすることになる。おまえが国のためにここに至ったとあらば、余計なことを決心せず死ぬべき。正しいことをして受ける刑なのだから、ひきょうに命乞いをせず、大義に死することがこの母に対する孝道だ。おそらくこの手紙が、この母のおまえに書く最後の手紙になるだろう。ここに寿衣を作って送るので、これを着て行きなさい。母は現世でおまえと再会することを期待していないので、次の世では必ず、善良な天父の息子となり、この世にいでよ」

 現在、大多数の韓国人は、安重根の母親が死刑目前の息子にこういう感動的な文章を送ったと信じて疑いません。

 ところが…私が少し前に別の資料で見た趙瑪利亜の伝言は、かなり結末が違うものでした。

(b)「母は現世でおまえと再会することを望んでいないので、おまえは今後、神妙に刑に服して速やかに現世の罪悪を償った後、次の世では必ず、善良な天父の息子となり、この世に再びいでよ。おまえが刑に服するとき、ウィレム神父さまがおまえのために山を越え川を越え、遠い道を行っておまえに代わってざんげをささげるだろう。おまえはそのとき、神父さまの引導の下、わが教会の法度に従って静かに世を去りなさい」

 (b)は(a)の末尾の文章から始まり、(a)で出ていたその前の部分は全て抜けています。逆に、読んでいてかなり気分を害する、意外な内容が追加されています。(a)は「おまえは大義に従い、立派なことをやったのだから命乞いをせずに堂々と死ぬべき」という内容ですが、(b)は「おまえは現世で殺人という罪を犯したのだから神父さまがおまえに代わってざんげをする。おまえはそれに従ってしかるべき刑罰を受けて、死後に罪を償い、生まれ変わるべき」と叱っています。特に「罪悪」という単語を見て、目を疑う人も多いでしょう。

 二つの資料は、完全に違う内容を記しているのです。

 これは一体どういうことで、真実は何なのでしょうか。

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  • ▲安重根義士の母親、趙瑪利亜。/写真=国家報勲処
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