安岡正篤という保守主義者がいた。日本政府と新日鐵を説得して韓国に協力させた人物だ。一学者だったが、日本政界の舞台裏で実力者として大きな力を発揮した。彼は韓国の正統性を疑わなかった。韓国は共産主義と闘う防波堤だと考えた。この信念は自民党主流派の韓国観を支配した。彼らの努力が韓国にどのような影響を及ぼしたかは、李秉喆(イ・ビョンチョル=サムスングループ創業者)、朴泰俊(パク・テジュン=浦項総合製鉄初代社長)ら戦後第1世代の企業経営者たちの自叙伝を見れば分かる。
かつて植民地支配した国と支配された国の中で、独立後、韓日のように発展的な関係を結んだケースはない。しかし、韓国の左派は「戦犯に助けてもらった」として韓国の経済発展をさげすむ。「戦犯」のレッテルを子どもたちが使う鉛筆にも貼る。韓国が滅びることばかりを待っていたデタラメ学者を「日本の良心」とあがめる。中国に盾突いた日本企業の財産を没収する。この国を二度抹殺しようとした中国にカネと技術を惜しみなくささげる。米国の北東アジア安保のおかげで生き延びていながら、韓米日軍事協力を口にすると「いっそ中国・北朝鮮と手を組もう」と言う。彼らは現代ではなく、旧韓末時代(朝鮮時代末期から大韓帝国時代まで)を生きている。だから果てなく彼我を混同する。
韓国の左派は韓日関係を壊し続けてきた。文在寅(ムン・ジェイン)政権の「竹槍歌(竹槍を手に日本軍に反乱を起こした東学軍を歌った歌)」はその低俗なレースのラスボスだと言える。それでいながら新たな城は築かなかった。無謀だったからではない。本質的に日本を狙っているわけでもない。輪の弱い所である韓日関係をつついて北東アジアの安保を支える韓米日という三つの軸を揺さぶろうとしているのだ。彼らにとって反日は反米の消極的な表現であると同時に、親北朝鮮と親中国の積極的な表現でもある。
安倍晋三元首相が死去するや、韓国の報道機関は彼を「日本の保守の心臓」と報道した。だが安岡正篤、岸信介、中曽根康弘、小渕恵三につながる日本の保守は彼らの質の低い手を読み、広い視野で韓日関係を導いた。安倍元首相は「晋ちゃん」という愛称通り、お坊ちゃまの限界から抜け出せなかった。文政権と同じ手で対決して保守の格を下げた。そういう点で「イニ(文在寅前大統領の愛称)」と「晋ちゃん」の時代はコインの裏表だ。
文政権は選挙で崩れた。無念の経緯で安倍時代も終わった。時代はこのように必然と偶然が重なる時に変わる。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は彼らが引き継いだ難題を解き始めた。両国はいつも難題を解きながら発展してきた。何かを始めれば、何もしない人々が必ず邪魔する。何かを成し遂げれば、それまで壊してきた者たちが再び壊そうと扇動するだろう。はねつけて前に進めばよい。
鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員