■海外で報道されると原文削除
中国にとって台湾統一は政治的冒険です。もし失敗すれば共産党政権が崩壊することもあるでしょう。そのような代価を払ってでも台湾を手に入れようとする重要な理由の一つは台湾のテクノロジー企業の確保です。
TSMCは世界最大の半導体ファウンドリー(受託生産)メーカーです。中国としては米国の制裁に直面して足踏み状態にある半導体など主要分野の技術を確保し、一気に強国に飛躍することを計算しているのです。
陳文玲氏は国務院(中央政府)研究室総合局長出身で、共産党最高指導部の経済関連演説原稿、首相の政府活動報告作成などを10年間務めた御用経済学者です。2010年に引退し、中国国際経済交流センターのチーフエコノミスト兼学術委員会副主任を務めています。誰よりも中国最高指導部の本音をよく知っている人物だといえます。
陳文玲氏の発言は当初、中国国内メディアでも報道されましたが、海外メディアがこの発言を取り上げて報道すると、記事と発言原文をすぐに削除してしまいました。本音をばらしたことが都合悪かったのです。
■「TSMC自動破壊システムの構築必要」
実際に中国のそうした狙いに関する意見は米国で先に示されました。
国防戦略専門家であるミズーリ大学のジェラード・マッキニー教授とコロラド大学のピーター・ハリス教授は昨年11月、米国陸軍指揮幕僚大学の季刊誌に寄稿した「壊れた巣:中国の台湾侵攻阻止」(Broken Nest: Deterring China from Invading Taiwan)という論文で、中国が武力侵攻を試みた場合、台湾にあるTSMC生産施設を完全に破壊する焦土化戦略を採用することを主張しました。中国が高い犠牲を払ってまで台湾を武力占領する要素を、完全になくしてしまおうという意図です。
また、中国の政策決定権者がまさかという思考をできなくするため、米国と台湾当局が協議し、侵攻開始と同時に自動的に生産施設を破壊するシステムを構築すべきだという話も出ました。台湾にいる半導体技術者を安全な場所に避難させなければならないという提案もありました。
陳文玲氏の発言はそうした米国の戦略家の提案に焦った中国政府の内心を物語っています。