中野学校が知られるようになったのは、1966年封切りの映画『陸軍中野学校』のおかげだ。映画には「優れたスパイ1人は2万人規模の正規1個師団に匹敵する」というせりふが出てくる。国益のため献身する情報要員の活躍を描いたこの映画は、高度成長で自信を回復した日本社会で愛国ブームをあおった。中野学校出身者らは「西欧列強を相手に東南アジアの民族解放戦争を遂行した」と主張する。だが日本の本心は、西欧列強を追い出し、その地位に成り代わろうというものでしかなかった。
本書を読んでみると、日本が侵略戦争を繰り広げる中で展開した情報戦の規模と深みに驚かされる。中野学校には東京帝国大学、早稲田大学、慶応大学出身のエリートが集まった。情報要員を養成していながら、当時流行の長髪やスーツ姿を認め、絶対服従ではなく柔軟性と自律性を要求した-という点も興味深い。それでこそ合理的な判断が可能、という理由からだった。こうした雰囲気の中で訓練を受けた情報要員は、バンコクやサイゴン、ラングーンやジャワ島を駆け回り、軍国主義日本の利益のため戦った。
中野学校の情報要員はこうして積み上げた情報とネットワークにより、戦後日本がインドや東南アジアで影響力を拡大することに寄与している、との指摘も興味深い。今ではミャンマーと呼ばれる旧ビルマの軍政は中野学校の遺産で、日本の対インド外交においても中野学校出身者が構築したネットワークが働いているのだ。世界で唯一、日本を見下している韓国人だけが知らない、日本の隠れた力だ。著者のステファン・メルカドは元CIAアナリストで、アジアの専門家でもある。460ページ、2万5000ウォン(約2450円)
金基哲(キム・ギチョル)学術専門記者