2005年、韓国は黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大学教授の論文捏造(ねつぞう)論争で騒がしかった。当時、黄教授は国際学術誌「サイエンス」に、世界で初めて人間の胚性幹細胞を抽出したと発表し、科学界を驚かせた。だが最終的にデータ操作が発覚し、黄教授はソウル大学から罷免された。
それから15年がたった2020年、ソウル大学の教授らが、博士課程の学生と共に『黄禹錫白書』を作ることで意気投合した。洪性旭(ホン・ソンウク)ソウル大学生命科学部教授(科学史および科学哲学協同課程)は「社会的に重要な事件が起きたら、研究者が集まって整理を行い、そこから得られる教訓を残さなければならない」とし「白書を通して黄禹錫事件を整理すれば、あのようなことが完全に消えはしなくとも、減りはするのではないか」と語った。
3年前のことだった。黄禹錫事件の後も学内では大小の研究倫理上の問題が発生し続けていた。委員会を立ち上げて調査するにしても、個人情報を理由に結果はあまり共有されなかった。洪教授は「黄禹錫事件がきちんと整理されずに残っていったことが、問題の根幹ではないか」と考えた。同じ悩みを持つソウル大学の自然科学・医学の教授らが一堂に会した。洪教授は05年12月、あるメディアに「私は黄禹錫教授を信じたい。だが…」というタイトルの記事を寄稿したことがある。論文のデータを公開して捏造疑惑をすっきり解明するという趣旨の記事だった。その後、黄教授の支持者らから非難された。ひどいときには、周りから「つまらない文章を書いた」と責められた。