ゲブレイェスス事務局長は、アフリカ北部の貧国エリトリアの出身だ。エリトリア国内の大学で生命科学を専攻し、英国で感染症関連の博士号(Ph.D)を取った。その後、隣国エチオピアの保健相を引き受け、エイズを22%、脳髄膜炎を68%減らして能力を認められた。保健の専門家というより、医療事業関連の基金と援助を大きく増やした外交の専門家に近い。彼は、アフリカ大陸に数兆ウォン(1兆ウォン=現在のレートで約929億円)規模の投資をしたいという中国政府の支援に後押しされ、17年にアフリカ出身者としては初めてWHO事務局長になった。
このところ、「WHOの立ち位置は以前に比べ劣化している」という声が国際医療界から上がっている。米国が予算支援を大幅に減らし、国対国の直接投資方式の医療事業に集中していることから、財政難が深刻になった。WHO職員の8割は、仕事が生じたときにあてがわれる非正規職だ。MERSの担当者も1人しかいない。感染症情報は米国疾病管理センター(CDC)に依存している。職員の相当数は現場で疫学調査をやってみたことが一度もない「会議専門家」だ、という批判もある。どこであろうと医療と防疫が政治に振り回されてしまっては、きちんとしたものになるはずがない。
金哲中(キム・チョルジュン)論説委員・医学専門記者