しかし「米国が日程の調整もしない状態で担当者を板門店に送ったとは考えられない」との指摘もある。北朝鮮が米国との交渉で高度の神経戦を展開しているとの見方だ。非核化交渉で米国は「完全かつ検証可能、不可逆的な核廃棄(CVID)」を要求しているが、そのハードルを下げさせるため北朝鮮は遺骨返還交渉を活用しているとも考えられる。実際に北朝鮮はポンペオ長官の訪朝直後「強盗」といった表現を使い米国を強く非難した。また米朝の非核化交渉は今後さらに難しくなるとの悲観論も根強い。交渉がさほど難しくない遺骨返還協議さえこのように複雑だとすれば、非核化に向けた交渉ではなおさら北朝鮮がそう簡単に協議に応じるとは考えられないからだ。
返還される遺骨の規模や費用について双方の主張に今も隔たりがあるとの見方もある。米兵遺骨は1990年から2005年までに334体が返還されたが、その際米国は1体当たりおよそ3万5000ドル(約400万円)を北朝鮮に支払った。そのため今回も費用全般や1回目に返還される規模などについて、双方の間でまだ合意に達していないというのが一部専門家の見方だ。米国は現時点で200体の返還を求めているが、北朝鮮はまず30-50体前後を提示したとの話も伝えられている。国連軍司令部に将官級会談を提案した理由も、返還される遺骨の規模や費用などについて北朝鮮が自分たちの主張を明確に伝えるためという見方だ。
これとは別に、北朝鮮が米朝首脳会談での合意の実行を引き続き先送りしていることに対し、米国では首脳会談の成果に対する疑念がさまざまな方面から出始めている。とりわけポンペオ長官に対しては「平壌まで行って手ぶらで帰ってきた」などの批判が強いため、今後ポンペオ長官の立場が苦しくなるとも予想されている。さらにポンペオ長官が「もうすぐ開催されるだろう」と明言した北朝鮮のミサイルエンジン試験場閉鎖に向けた実務協議についても、当初の予想よりかなり先送りされそうだ。