その元官僚はアベノミクスが成功したと騒ぐ声にあまり感じることがなかったが、この会社を見てからは「優れた技術力は言うまでもなく、実用的能力主義が定着した賃金体系と合理的な継承の精神はうらやましい。韓国でもああいう会社が増えてこそ、韓国経済の未来があるのではないだろうか」と言った。
アベノミクスに触発された日本経済の復興は、単に円安・金融緩和でもたらされたわけではない。それらが起爆剤であることには違いがないが、20年もの不況の中で手堅く構造改革をしてきた、技術力のある日本企業が支えているからこそ可能になったのだ。
それに比べ、最近の韓国経済の実績はあまりにも憂鬱(ゆううつ)だ。政府が金融緩和し内需に目を向けたことから7-9月期の成長率はこの5年間で最高となったが、造船3社が巨額の赤字を出すなど、韓国の主力産業には次々と赤信号がともっている。現代重工業が十数年前、スウェーデンのマルメにあるコックムス造船所をたった1ドル(約120円)で買収した「マルメの涙」の悲劇が、今度は韓国の悲劇になってもおかしくない状況だ。「サムスンが日本のソニーを抜いた」と歓喜してからたった数年で、中国の小米科技(Xiaomi)が韓国のサムスン電子を抜く日も目前に迫っている。若者の失業だけが問題なのではなく、製造業の競争力と原動力自体が低下している。
2008年の世界金融危機から7年。世界経済は長期不況に入り、危機の中でまた勝者と敗者に分かれている。危機の主犯・米国はドルの強さを武器に真っ先に回復した。中国経済は高速から中速へとスピードを落としたが、これまで築いてきた経済力をもとに米国と肩を並べている。