李在明(イ・ジェミョン)大統領が今月12日の業務報告の際に『桓檀古記』に言及したことについて、学界からは「あきれて困惑している」という反応が出ている。大統領は同書に関する東北アジア歴史財団理事長とのやり取りの過程で「歴史に対する根本的な立場の違い」と述べたが、『桓檀古記』はすでに「偽書」と判明して久しく、論争の余地もないからだ。
【写真】「世界の文明は韓民族から始まった」 桓檀古記の主張を世界地図で確認
古代史学者の崔光植(チェ・グァンシク)高麗大名誉教授(元文化体育観光部〈省に相当〉長官)は「『桓檀古記』は1910年以降に民族主義を強調するために世に出た本だ」として「史料としての信ぴょう性がなく、学界ではすでに偽書だということで意見がまとまっている」と述べた。
「エセ歴史学の教本」「クッポン(過激な愛国主義)の最高頂点」と呼ばれる『桓檀古記』は、その内容が正しいとするならば、世界の文明史を韓民族中心に書き直さなければならないほどの本だ。1911年に大倧教の教徒、桂延寿(ケ・ヨンス)が古書4種を筆写して編さんしたとされ、1979年に太白教の教祖である李裕岦(イ・ユリプ)が影印本(写真印刷によって複製した本)を公開したことで世に知られるようになった。
『桓檀古記』は、檀君朝鮮以前に桓国3301年、倍達国1565年の歴史が存在し、韓国史の始まりは1万年前にまでさかのぼり、桓国の領土はアジア大陸のほぼ全てを含む「南北5万里、東西2万里」だったと記している。また「12の桓国の一つである須密爾(スミリ、スミル)は、世界最高の文明を築いたシュメール」と解釈され、世界の文明は韓民族から始まったという主張の根拠となった。中国神話の人物だった蚩尤が、『桓檀古記』では「倍達国第14代の王だった」と記されたことから、サッカー韓国代表の応援団のシンボルになるなど、社会的影響も少なくなかった。
しかし学界では、偽書だという根拠は明白だとみている。内容の大半が他の歴史書には全く書かれていない上に▲1979年以前に『桓檀古記』を見た人物が李裕岦以外にいない▲「国家」「人類」「世界万邦」「男女平権」など、近代以降に出現した漢字語が多く書かれている▲考古学的にも桓国や倍達国の時期は国家が生まれていない新石器時代だった-といった理由からだ。
概して『桓檀古記』を「本物」と考えるのは保守傾向の人々だとされているが、2008年に『新翻訳 桓檀古記』を出版した人物は、「主体史観で我が国の歴史を捉えなければならない」と主張していた親北傾向のカン・ヒナム牧師だった。左派の民族主義陣営にもあがめられる書物だったというわけだ。
論争が拡大すると、韓国大統領室は14日「東北アジア歴史財団の業務報告の過程でなされた大統領による『桓檀古記』に関する発言は、この(書物の)主張に同意したり、これに対する研究や検討を指示したりしたものではない」との立場を明らかにした。
兪碩在 (ユ・ソクチェ)歴史文化専門記者