韓国の86とは違い、西欧の68が残した遺産は権力の世界ではなく、知性の領域でさらに輝く。例えば1968年5月にフランスで起きた五月革命は左派内部で新マルクス主義が分化する契機になった。その結果、非暴力的議会主義方式による資本主義の改革可能性を議論し実験し始めた。68年革命が触発したポストモダニズムは、近代主義が自任してきた理性と合理主義、社会的啓蒙、権力の公共性、知識および科学の普遍性などに疑問を提起し、人類文明のもう一つの未来を提示した。
意思疎通と対話、十分な議論に基づく公論の再構成を通じ、合理性と近代主義の新たな出発を模索したユルゲン·ハーバーマスの「批判的社会学」も68年革命の結実の一つだった。韓国の民主化世代の知識人に大きな影響を与えた社会理論だ。現在韓国人が特に熱狂する「公正としての正義」もやはり理論的なルーツは68年革命だ。骨の髄まで自由主義と市場経済の国だった米国でジョン・ロールズが哲学的言語で平等と福祉論理を確立したことにも68年革命の影響が大きかった。68年革命を「事件」ではなく「革命」と呼ぶのもそのためだ。
これに対し、韓国の86は知の営みという側面から見て殻だけに近い。いまだに反帝国主義、反封建理念、民衆主義階級論の水準にとどまっている彼らの精神世界は、大学時代から体質化された無教養、反知性主義の必然的な代償と見られる。86世代と西欧の68年革命はいずれも学生運動から出発した。しかし、西欧の68革命が歴史の進歩に少なからず貢献し、人類共通の知的資産として残ったのに対し、これといった知的反省や進化を経験していない韓国の86は、日増しに私益と権力欲に染まっている。まさにそんな彼らの手によって全国民が血と汗で築いた塔、民主主義も無残に崩れ落ちる。
全相仁(チョン・サンイン)ソウル大名誉教授(社会学)