「被害者」ポジション争いを眺める九つの基準とは 【新刊】リリ・チュリアラキ著『加害者は皆、被害者だと言う』

人権の感受性が高い国ほど加害者・被害者間の競合が深刻

【新刊】リリ・チュリアラキ著、ソン・ウォン訳『加害者は皆、被害者だと言う』(銀杏の木社刊)

 現代においては、ソーシャルメディアが状況を悪化させている。アルゴリズムの作動方式が「いかなる主張が妥当で、正義のようであるか」ではなく「いかなる主張が話題になっているか」に焦点を合わせているからだ。そのため、ソーシャルメディアで影響力を持つ集団の主張が強化される。応答数(リツイートや『いいね』)やコミュニティーの大きさ(フォロワーの数)といった数字が主張の根拠になる。

 カバノー事件のときも「#IStandWithBrett(ブレット・カバノーを支持する)」というハッシュタグが付いたコンテンツがフェイスブック・ツイッターなどにあふれた。韓国社会で政治家が論争に巻き込まれた際、巨大ファンダム(熱心なファン集団)がソーシャルメディアに結集するのも同じことだ。こうなると、世論が選択的に増幅されるケースも生じる。著者は「ソーシャルメディアは加害者・被害者の区分を混乱させる。被害の主張が話の脈絡とつながらずに人気・匿名性といった論理と結合し、拡散する」と述べた。

 著者は、被害者の地位を巡って競合する際に使用され得る調査法を九つ提示した。「誰がどのような力で発言し、誰が沈黙させられているか」「おのおのはどのような社会的地位にあるか」「どのような種類の集団を結集させているか」といった質問だ。この基準で競合を眺めれてみれば、誰が真の被害者なのかを超えて、人々がどのような条件で語っているのかも把握できるという。

 米国など西欧の事例を中心にした本だが、甲チル(優越的地位を利用した無理強い。パワハラ)、教え子の論文の盗用、権力型性犯罪などに手を染めた「強い人間」たちが口々に「悔しい」と言う韓国社会を鏡のように映し出している。学術書と教養書の境界をまたぐ書籍なので、現代社会学についての基本常識があってこそ無理なく内容を追っていくことができそうだ。312ページ、1万9500ウォン(約2080円)。原題は「Wronged: The Weaponization of Victimhood」。

パク・チンソン記者

【表】被害者性を看破するための質問

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