ロシアの特殊部隊員およそ800人は、米国のトランプ政権がウクライナに対してロシア軍の動きに関する情報提供を中断した先月初めの1週間、クルスク州で14.5キロのガス管を利用してウクライナ軍陣地の後方に奇襲攻撃を仕掛ける作戦を展開した。
当時は、トランプ政権がウクライナ政府に対し、ロシア軍に関する情報提供を中断した時期だった。ドナルド・トランプ米大統領とJ・D・バンス副大統領が2月28日にホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会い、プーチン大統領の和平交渉への意志や、ウクライナの米国に対する感謝不足などを巡って記者団の前で舌戦を繰り広げた後のことだった。
トランプ政権は3月5日から11日まで、ロシア軍の動向に関するウクライナへの情報共有を一時停止した。ロシアはこの「情報暗黒期」を、ウクライナ軍に最大の打撃を与えるチャンスとして活用した。西側の軍事専門家らは、ロシアがこの「情報ブラックアウト」のおかげで、数カ月間進展のなかったクルスク奪還作戦で突破口を見出したと指摘している。これは英紙デイリー・テレグラフが8日に報じた。
ウクライナ軍は昨年8月、ウクライナの北側に位置するロシア南西部クルスク州への奇襲攻撃を敢行し、一時はソウル市の面積の2倍に当たる1300平方キロメートルの領土を掌握した。しかしウクライナ軍は今年3月初めには占領した地域の64%を失った。さらにロシア軍は、ウクライナ軍の補給拠点であるクルスク州スジャへのルートを遮断するという作戦を展開した。
ロシア軍は、ガス管を利用した奇襲作戦「ポトク(Potok、ロシア語で『流れ』を意味)作戦」をこの時期に展開した。攻撃ルートとして使った直径1.4メートルのガス管は、2カ月前までシベリア産の天然ガスを欧州に輸送するパイプラインの一部として使われていたものだ。
ロシアの国営メディアRT(ロシア・トゥデイ)によると、ロシア軍は3週間かけてガスを抜いて酸素を注入し、地上に通じる出口を追加で作り、弾薬と水、兵力を輸送する準備を進めた。
しかし、狭い空間に数百人の兵士が入って移動したため、多くの兵士が極度の寒さと酸素不足に苦しみ、メタンガスなどの有毒ガスを吸い込んで深刻な化学的肺損傷を負った。
ロシアの特殊部隊「アフマト」所属の軍医は、ロシア・メディア「プラウダ」に対し「肺が詰まったりひどく膨張したりして、症状が加速度的に悪化して肺炎や呼吸不全を起こした兵士も多かった」と語った。別のロシアの軍医も「こんな症状は初めて見る」と話した。
「ポトク作戦」の成果については、ロシア側とウクライナ側の評価が大きく異なっている。ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長は3月8日「ガス管の中から600人以上の兵士が一斉に飛び出して奇襲し、敵の防衛線を崩壊させた」と主張した。