米国の先端AI(人工知能)に匹敵する水準があるとして知られ、全世界に衝撃を与えた中国の「ディープシーク(Deep Seek)の従業員に対し、中国指導部が最近出国禁止令を出したという。テクノロジー専門メディアのインフォメーションが消息筋の話として伝えたもので、ディープシークの研究員は当局に旅券を押収され、海外旅行ができなくなったという。ディープシークの従業員に転職を提案した中国のヘッドハンティング企業は当局から「関わるな」という警告を受けたとされる。ディープシーク関連技術が米国など他国に流出するのを防ぐための措置だ。
ディープシーク創業者の梁文鋒氏が中国で国家元首級の警護を受けているという話もある。ディープシークの内部事情を熟知する北京の業界筋によると、今年1月にディープシークが全世界的に注目されて以降、パリで2月に開かれた『AIアクションサミット』に出席しようとした梁氏の出国が取り消されたという。1月以降、梁氏が公に姿を見せたのは、習近平国家主席と李強首相がそれぞれ開いた座談会が全てだった。
第一次トランプ政権(2017~21年)以降続いた対中技術封鎖に対応し、中国が先端技術の独自開発に相次いで成功しており、これまで「技術を奪取する国」と見なされていた中国が今や技術流出の防止に全力を挙げている。最高水準の先端技術開発に成功した企業が登場すると、中国の産業情報が米国のようなライバル国に流出しないように対策を講じている格好だ。
英フィナンシャルタイムズは19日、米電気自動車(EV)最大手テスラを抜き、3年連続でEV(ハイブリッド車を含む)販売台数世界首位の座を保っている中国BYD(比亜迪)のメキシコ工場設置計画の承認を中国政府が先送りしていると報じた。同紙は「BYDの先端技術がメキシコ経由で米国に流出する可能性を懸念して取られている措置だ」と伝えた。業界関係者によると、自動運転車の光検知・測距センサーであるLiDAR(ライダー)の世界シェア1位である上海の禾賽科技は、来年初の海外工場稼働を控え、重要部品を全て中国で生産するという原則を立てたという。禾賽科技は技術流出を懸念し、どの国に工場を設立するのかも公表していない。
■1万キロ量子通信、側宙ロボット…世界最大・世界初を相次ぎ達成する中国
トランプ政権は1期目から中国に対する「技術封鎖」を進め、2021年にトランプ氏に勝って大統領に就任した民主党のバイデン政権もそうした路線を引き継いだ。先端部品・機械の輸出を阻止し、中国を枯死させるという計画だったが、逆風を呼び起こし、むしろ中国指導部が総力戦を繰り広げる形で技術の自立を触発したと分析されている。
中国企業は既にドローン(代表企業・深セン市大疆創新科技=DJI)、EV(BYD)、電池(寧徳時代新能源科技=CATL)、ロボット犬(杭州宇樹科技=ユニツリー・ロボティクス)、通信装備(華為技術=ファーウェイ)などの分野で世界トップの座に就いた。中国指導部の支援を受け、AIスタートアップのディープシークと共にアリババなど既存のビッグテック企業までもがAIに積極的に参入し、これまで遅れを取っていたAIと先端半導体分野でも米国に追い付いた。エコノミストは「最近の中国AIの発展は、米国企業やトランプ氏を含む米政府関係者を当惑させた。中国が米国の首を絞めにかかる世の中に備えるべきだという危機感が広がっている」と伝えた。