ところが控訴審は、李代表の発言は「事実の公表」ではなく「意見の表明」に該当して処罰はできない、とした。「仕方なく」という言葉は相対的・主観的概念で、「脅迫された」という言葉も誇張された表現というだけで、虚偽事実とは断定し難い、というのだ。この部分で裁判部は2020年の、当時の権純一(クォン・スンイル)大法官=最高裁判事に相当=が主導したといわれる李代表の虚偽事実公表事件判例を再度引用した。その上で「ある部類に属すると断定し難い表現の場合、原則的には意見や抽象的判断を表明したものと把握すべき」とした。すなわち、「脅迫」発言も事実の適示ではなく意見の表明、というわけだ。
法曹界からは「今回の判決が確定したら、テレビ討論会に続いて国政監査会場もうそをつける空間になってしまうだろう」という反応が出た。ある検察幹部は「国政監査会場でどんなうそをついても“意見の表明”だと主張できるようになった」と語り、法曹界のある人物は「“脅迫された”を意見表明だと見る場合、刑法上の脅迫罪で処罰すること自体が不可能になるだろう」と述べた。
「事実関係をきちんと把握していない判決」という指摘も出た。一審では、国土交通部と城南市の元職・現職公務員22人が証人として出てきて、全員が「脅迫はなかった」と証言した。控訴審の証人2人も「脅迫はなかった」と証言した。それにもかかわらず裁判部は、原審の判断を180度覆した。張永洙(チャン・ヨンス)高麗大学法学専門大学院教授は「“国土交通部の脅迫”発言は、脅迫の存否を問えばよいだけのことなのに、なぜあんな判断をしたのか疑問」と語った。
■「疑わしきは被告人の利益に」
「裁判部が今回の事件を無罪と判断する余地は十分にあった」という反論もある。問題になった李代表の発言が「事実」の領域なのか「意見」の領域なのか明確ではない、というのだ。虚偽事実公表罪は、候補者の経歴・財産など客観的事実や行為などについてうそをついたときにのみ成立するが、李代表の発言は主観的認識や意見表明に該当し得るもので、処罰の対象ではないというわけ。
李代表が「国土交通部から脅迫された」と言ったことについても、ある法曹関係者は「国土交通部が城南市に“柏峴洞の敷地が早く売却されるように協力してもらいたい”という公文を複数回送ったが、実際に脅迫はなかったとしても、本人が脅迫されたと感じることはあり得る」とし「大法院の判例も、大枠でのみ事実に符合していれば多少誇張された表現程度は許容している」と語った。
瑞草洞のある弁護士は「有罪なのか無罪なのか判断がつかないときは被告人に有利に解釈するのが大原則」だとし「こうした原則が全ての事件に適用されるのが正しい社会」と語った。
選挙出馬者の政治的表現の自由は昔よりも幅広く認められるべきだと、という意見もある。元職のある部長判事は「このごろは大統領選候補が何か主張をしたら、ソーシャルメディアを通してリアルタイムで反論が可能な社会」だとし「あらゆる発言を一つ一つ法的に問題にするより、自由に討論がなされるようにしておいて、有権者が最終判断すればいい問題」と語った。
兪鍾軒(ユ・ジョンホン)記者、パン・グクリョル記者、キム・ナヨン記者、パク・ヘヨン記者