ショーン・コネリー主演の映画「ザ・ロック」の舞台となった米アルカトラズ刑務所はかつて「脱獄不可能」として有名だったが、刑務所が閉鎖された後は観光地に生まれ変わった。マフィアのボスだったアル・カポネをはじめ凶悪犯が収監された独房、また島を取り囲むサンフランシスコの荒海などを見るため今では多くの観光客が集まる「ダークツーリズム」の名所だ。ダークツーリズムとは悲しい歴史や暗い犯罪現場を回るツアーのこと。韓国の国立国語院は「歴史の教訓旅行」という言葉を推奨している。
【写真】尹大統領弾劾デモの参加者をスマートフォンで撮影する外国人観光客たち
この種のツアーは実は非常に長い歴史を持つ。紀元前5世紀のペルシャ戦争にまでさかのぼるとも言われる。ペルシャ戦争では当時スパルタ王だったレオニダス1世と300人の兵士がテルモピュライの戦いでペルシャ軍と戦い、全員が戦死した。戦争後にギリシャ人はこの地に兵士たちの勇敢さをたたえるライオン像を建て、競技会を毎年開催した。今も多くの観光客がレオニダス1世の銅像を一目見るためこの地を訪れている。
ボスニアの首都サラエボには多くの建物に今も無数の銃弾の跡が残っている。第2次世界大戦後の20世紀の欧州で最悪と言われる虐殺が行われたボスニア紛争の痕跡だ。ボスニア人たちは悲劇の痕跡を消さず、砲弾の跡を赤く塗り「サラエボのバラ」と名前を付けた。多くの人たちがこのバラを見て過去の過ちを振り返ろうと現場を訪れる。アウシュビッツ収容所、キリングフィールドで有名なカンボジアのトゥールスレン虐殺博物館、ウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)なども代表的なダークツアー観光地だ。
実は北朝鮮もその一つだ。2018年に中国のツアー会社が英プレミアリーグの試合会場に「北朝鮮を訪問しよう」と書かれた広告を出したところ、ある夫婦が好奇心から北朝鮮を旅行した。平壌で中国人ツアー客に会った時に「なぜここに来たのですか」と尋ねたところ、全員が「中国の1970年代のようだ」答えた。観光客だった米国人のオットー・ワームビアさんは平壌のホテルにあったスローガンを損傷させたとして拷問を受け犠牲になった。北朝鮮旅行は命懸けのダークツアーでもあるのだ。
韓国にもダークツアーの観光地が多い。乙巳(いっし)条約(第2次日韓協約)が締結された徳寿宮重明殿、日帝強占期に独立闘士たちが投獄された西大門刑務所、6・25戦争の現場でもある非武装地帯、災害で多くの人が犠牲になったセウォル号沈没や梨泰院惨事の現場などだが、最近はこのダークツアーに弾劾賛成・反対集会の現場も含まれているという。外国人があえてデモ現場を見物し、ホテルを予約する際にも集会現場がよく見える「集会ビュー」を希望するケースが多いという。つい先日まで韓流ドラマやKポップの聖地として世界から称賛された国が今こんな扱いを受けている。あまりに残念なことだ。
金泰勲(キム・テフン)論説委員