Aは1990年代から副士官として情報司令部に勤務し、退役後も2000年代中ごろに軍務員として情報司令部に再就職した。軍検察によると、Aは自らが構築した工作網に接触するため2017年に中国に渡ったが、その際に中国同胞(朝鮮族)の中国情報機関要員Bに抑留・包摂され、その後はBの指示で軍事機密を提供していた。Aは文書を領外に持ち出したり、また無音カメラアプリで撮影するなどしてこれらの機密ファイルを中国のクラウドサービスにアップロードする手口で情報を提供していたという。
軍検察はAが2022年6月から24年までファイル形式の文書12件、口頭での伝達18件の合計30件の情報を流出させた事実を確認している。Aが持ち出したファイルには中国やロシアなどで北朝鮮関連の情報を収集してきたブラック要員リストの一部、情報司令部の全般的な任務や組織編成、情報部隊の作戦方法と計画、特定地域の情勢判断などが含まれていた。これにより韓国軍要員らは一時帰国を強いられるなど、軍の情報網も大きな打撃を受けた。軍検察は17年から22年初めまでに流出した機密の内容、また17年から19年までに受け取った現金の額までは把握できなかったため、これらは起訴状に含めなかった。
Aに対する初動捜査を担当した国軍防諜司令部はスパイ罪を適用して軍検察に送検したが、軍検察はスパイ罪は除外した。現行の間諜法は「敵国(北朝鮮)を利するスパイ行為」のみを処罰の対象と定めているが、今回は北朝鮮の直接の関与を立証できなかったためだ。Aによる今回の事件でスパイ罪の対象を敵国から外国に拡大する改正案が国会法制司法委員会の小委員会で与野党合意で議決されたが、野党・共に民主党が「悪用の可能性がある」と主張し今も審議はストップしている。
ある韓国軍筋は「一般利敵罪で懲役20年が宣告されるケースは珍しい」とした上で「裁判長は厳罰が必要と判断したのだろう」と説明した。2018年に中国や日本に情報司令部要員の個人情報など100件の機密を提供した情報司令部の元工作チームリーダーは一般利敵罪で懲役4年が宣告された。
ヤン・ジホ記者