一方、1882年の朝鮮王朝と米国の相互通商条約では、大統領ではなく「プレジデント」の発音をそのまま漢字に移した「伯理璽天徳」を使った。しかし、民主主義を知らなかった日本が急造した「大統領」が、臨時政府に続き現代の韓国憲法にもそのまま借用された。民主国家・米国の「プレジデント」が太平洋を渡り、王朝の匂いが漂う「大統領」になったのだ。大統領という言葉は日本が作ったが、「大統領」と呼ばれるリーダーが君臨し、統治する国は韓国。これは皮肉だ。米国、フランス、メキシコ、チリ、ロシアは、発音は少しずつ違っていても単に「プレジデント」だ。
韓国の大統領制の有効期限は尽きた、という声があふれている。行政権力と立法権力が不和を起こしたときに発揮されていた政治と妥協の知恵も、今や消尽した。両極端の支持層ばかり狙うユーチューブのアルゴリズムが民主主義を崖っぷちへと追い込んだ。民主指導者を選出しておいて王の権威を付与し、5年後には処刑・追放という刑罰を下す。殺害されたり命を絶ったり、拘束されたり流刑地でソーシャルメディアで暇つぶししたりするのだ。大統領の免停事件は速度超過と居眠り運転で終わるだろうと思っていたが、飲酒運転が追加された。速度超過は免停にとどまり、居眠り運転は免許取り消しに遭い、飲酒運転は処分を待っている。
既存の秩序の崩壊は新秩序をつくるチャンスだ。しかし、権力まで8合目の稜線に立っているような民主党には、全く通じない言葉だ。だから、権力を取ったとしても5年間ずっと「犯罪者大統領」というレッテルが付きまとって国は真っ二つになり、5年後には前任者のように処刑・追放を避け難いだろう。改憲のような大袈裟な話も必要ない。今では涙と血でごちゃまぜになった大統領に代わる韓国の指導者を、本来の意味である「プレジデント」と民主政にふさわしく、国家議長や国務議長と呼べばどうだろうか。日本が166年前に急造した大統領という言葉の沼にはまり、民主政と封建王朝の間で、韓国人だけがもがいている。
鄭佑相(チョン・ウサン)論説委員