1970年代、安月給だった韓国の外交官たちは、夫婦同伴のパーティーに着ていくタキシードやドレスを買う金がなかった。苦肉の策として用いられた小細工が、百貨店で服を購入し、パーティー当日に一日着用した後、翌日に返品することだった。筆者にこの話を聞かせてくれた主要国大使の妻は「値札を隠すのに冷や汗をかき、服を汚さないように努力した」と苦笑いした。
欧州特派員時代、食卓を購入したものの不良品が配達され、苦労した。天板二つを取り付けることで6人用の食卓になる構造だったが、二つの天板がうまくかみ合わなかった。家具店に返品を要求したところ、1カ月半もたって新しい製品に交換してくれたものの、やはり同じ不具合が見つかった。一方、組み立て家具販売店イケアの「返品コーナー」では、コストパフォーマンスの良い小物家具を得ることができる。多少の傷さえ我慢すれば、値段も安く、自分で組み立てる手間も省ける。
宅配天国の韓国では、返品サービスも世界一だ。オンライン・ショッピングモールを通じて購入した商品が気に入らなかったり不良品だったりした場合、家の前に出しておくだけで回収してくれる。返品を前提に色やサイズ別に服や靴を購入。見比べた後、一つだけを残して後は全部返品する消費者も多い。生鮮食品を購入後、一部を食べて返品したり、夏場に扇風機を購入し、思う存分使った挙げ句、返品期限(30日)の1日前に返品を要求する「ブラック・コンシューマー」も存在するという。
アリエクスプレス(AliExpress)やテム(Temu)など中国の電子商取引会社は、韓国市場に進出する際、「無料返品」カードを積極的に活用した。顧客が返品を要求すると、「製品廃棄」を要請され、返品せずに払い戻しに応じてくれる。しかし、そのコストは販売者に全て押し付けられたため、耐えかねた中国の販売業者たちが本社に集まってデモを行った。「無期限返品」を誇ってきたコストコは、コスト負担が拡大したことで、テレビ、洗濯機、ロボット掃除機などの電気製品の場合、返品許容期間を3カ月に制限した。
流通業者は返品された商品を状態によって「未開封、最上、上、中」の4等級に分類し、最大90%引きの値段で再販する。クーパン、11番街、ロッテホームショッピングなどでは、返品商品だけを別途に取り扱う「返品マーケット」コーナーを運営している。企業各社は返品コストを減らすため、AI(人工知能)やビッグデータ技術を活用している。仮想状態で服を試着し、靴を履いてみることができる「仮想フィッティング」や、身体のサイズを正確に測定するアプリまで開発した。顧客の返品要請があると、AIの相談員が「値段を50%引きにするので、そのまま使用してほしい」と、交渉に入るケースもあるという。
金洪秀(キム・ホンス)論説委員