メルケル前首相は2020年、欧州連合(EU)と中国による包括的投資協定(CAI)を合意に導きました。ドイツ企業が中国市場で不公平な待遇を受けず、欧州企業が広大な中国市場に容易に進出できるようにする狙いでした。
また、気候変動に対応するため、中国と積極的に協力しました。退任当時、中国は世界の温室効果ガス排出量の31%を占めていました。メルケル前首相は習主席が2020年に国連で「2060年までに炭素ゼロを達成する」と約束した点を挙げ、「ドイツはもちろん全世界にとって良いことだ」と述べました。
■一帯一路は開発途上国の対中依存度だけを高めた
回顧録には習主席が掲げる「中国夢」に関する内容が出てきます。メルケル元首相は2013年の習主席就任以来、あらゆる問題について討論する機会を持ったといいます。当時習主席は2000年間の人類の歴史について語り、「20世紀のうち18世紀は中国が世界経済と文化の中心だった」という点を強調したということです。19世紀の初めから遅れたが、それまでは世界の中心だったというのです。
習主席は「歴史的に正常な状態に中国を戻すべきだ」とし、それを「中国夢」と呼びました。2017年に習主席がトランプ大統領に会った席上、「韓国はかつて中国の一部だった」と発言したことが思い出されます。
中国夢を掲げる中国の攻撃的な動きについては批判的な見方を示しました。習主席は就任初期から東アジアと欧州、アフリカをつなぐ「一帯一路プロジェクト」を推進しました。習主席は多国間主義を実現するためのプロジェクトだと説明しましたが、メルケル前首相の考えは違いました。開発途上国に対する中国の投資が開発途上国の対中依存度だけを高め、開発途上国の主導権を大きく縮小させたからです。
■南シナ海で国際法を無視して勢力拡張
南シナ海全域に領有権を主張する「九段線」を引き、その内側にある島と海はいずれも中国の管轄だと主張したことも批判しました。2016年7月に国際常設仲裁裁判所が「中国の九段線主張は根拠がない」という判決を下したにもかかわらず、国際法を無視して南シナ海で勢力を拡大し続け、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど周辺国の反発を招いたとの指摘です。
メルケル前首相はさまざまな事例に言及し、中国の政治家は多国間主義を口にしているが、「口だけだ」と切り捨てました。口では多国間協力と相互利益を掲げるが、実際には力で全ての問題を解決しようとしているというのです。現実主義の政治家らしい冷静な評価でした。
崔有植(チェ・ユシク)記者