運転免許はあるものの、ソウルでは車を運転しようとは思わなかった。公共交通機関が所狭しと発達しており、混雑している都市で運転して駐車するということ自体が楽しい経験とは思えなかったためだ。しかし、結婚して子どもが生まれ、運転を余儀なくされた。最初の1、2カ月間は道路上で武術を習うような思いだった。何が起こるか知れず、悲鳴を上げることもあったし、無事目的地に到着した暁には訳もなく達成感を感じたりもした。
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時間がたったことで、いつの間にか私も周囲の人たちと同じように運転するようになった。つまり、割り込みをし、ささいなことでクラクションも鳴らし、他のドライバーが割り込む隙を与えないといった習慣だ。ある日、隣の席で妻が言った。「あなたも今では韓国人ね」。何も初めからそうだったわけではない。もちろん、こうした自分の姿は嫌いだ。公共に対する意識を持ってまずは親切を施したい。しかし、たった一人で親切にしていると、それはまさしく間抜けというものだ。
殺伐とした運転文化には、ドライバーの顔が一切見えない「スモークガラス」も一部影響を与えていると思われる。ほとんどの国ではスモークガラスを規制し、いわゆる有名人でなければ考慮しない。しかし、韓国ではほぼ車の中が見えないほどに色の濃いスモークガラスを使用する。
筆者の母国である英国では、運転の際、相手のドライバーと目を合わせてコミュニケーションを取ることがよくある。状況によっては恥ずかしさを感じることもある。サルトルの言葉のように、見るものと見えるものは行動する主体であるだけでなく、他人に見える客体になるという意味を内包しているためだ。利己的に運転すると、冷淡な視線を浴び、悪い人という客体になりかねないため、少しでも配慮しようという意識を持つようになる。
英国では、スモークガラスは違法だ。有名ラッパーのストームジー(Stormzy)は最近、裁判で車に濃いスモークガラスを使用したことについて有罪を認めた。運転中に携帯電話を使用していた罪も加わり、処罰はさらに拡大するものと思われる。スモークフィルムがあれば内部が見えないため、ドライバーが運転中に携帯電話を使用する可能性もさらに上昇する。
人々はなぜコメント欄に悪質な書き込みを多数アップするのだろうか。匿名性と距離感のためだ。スモークガラスと同じような脈略からだ。恥ずかしがらずに本当の姿を見せる。われわれにはある程度の匿名性は必要だが、それによってわれわれの暗い面があらわになるのは残念なことと言わざるを得ない。
ダニエル・チューダー・元エコノミスト韓国特派員(小説『最後の王国』著者)