「父が中国でスパイ容疑で連行された時期は、サムスン電子の半導体技術の中国流出で韓国が騒然としていた時期と一致する」
中国政府が反スパイ法違反容疑で身柄を拘束したことが最近確認された、50代の韓国人男性Aさん。Aさんの娘は、10月30日に本紙のインタビューで「父は中国の半導体企業で会議への出席すらできず、高級半導体の技術も取り扱っていなかった。そんな父が一夜にしてスパイにされるのだから話にならない」と語った。中国が韓国の半導体技術を盗んでいるという論争が強まるや、これに対応するために中国側が「反スパイ法適用」という新たなカードを切った、という主張だ。
かつてサムスン電子に勤め、その後中国の半導体企業「長鑫(ちょうきん)存儲(そんちょ)技術」=CXMT=でも働いたことのあるAさんは、昨年12月18日に中国の自宅から連行された。今年5月に正式に逮捕され、合肥の拘置所に収監された。Aさんは、CXMTの情報を韓国に流出させたという疑いを持たれているという。中国が昨年7月に、スパイ容疑の適用範囲を拡大した改正反スパイ法を施行した後、韓国人に適用したのは初めてだ。
実際、この韓国人男性が連行された時期は、メモリー半導体の一種である16ナノメートル級DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)技術を中国の代表的な半導体企業であるCXMTに渡したとして韓国検察がサムスン電子の元社員に対する拘束令状を裁判所に請求したことが報じられた直後だった。それに先立ち昨年6月には、サムスン電子の半導体工場の「コピー」を中国・西安に建てようとした元サムスン電子常務が逮捕・起訴される事件もあった。当時、韓国では半導体技術の中国流出を懸念する世論が急激に広まっていた。中国は自国の半導体企業を保護して韓国に対する交渉力を維持するために、韓国のエンジニアや高級人材に対する「スパイ追及」を控えていた慣例を破った-という分析だ。Aさんの娘は、本紙に「中国が韓国を狙って反スパイ法を適用するための先例作りをしたといえる」と語った。
-昨年12月に中国国家安全局の捜査官が家に押し入って来た後、どんなことが起きたのか。
「朝早く、安徽省合肥市の自宅に捜査官らが訪れて父を連れていった。寝間着姿だった父は『着替えだけでもさせてほしい』と頼み、中国語が分からない母は訳も分からぬまま父を送り出した。今年5月26日に正式に逮捕されて拘置所に収監されるまで、父は合肥市の人里離れたホテルで取り調べを受けた。家族は、そのホテルがどこにあったのかいまだに知らない。今もなお、父とは対面もなく、手紙だけで連絡を取り、それすらも9月から途絶えた」
-中国でお父さんが反スパイ法の適用を受けた理由は何だと思うか。
「父がスパイ容疑で連行された時期は、サムスンの半導体技術の中国のCXMTに流出した事件が韓国で報じられたころ(昨年12月13日)と重なる。二つの事件に関連があるのではないか。駐中韓国大使館でも今回の事件を『特異ケース』だと言っている」
-中国当局はお父さんの容疑を何と説明しているのか。ひんぱんに使っている単語はあるか。
「これまで容疑についての具体的な説明は全くなかった。今年3月に母が参考人として取り調べを受けたときは『CXMT』に主に言及していた。捜査官は『あなたの夫が中国の会社で働いて助けてくれたことは確かだが、明らかに間違ったことがある』とだけ言っていたという」