公式統計はないが、中国が西側諸国の国民に反スパイ法を適用した事例も、少なからず明らかになった。今年初め、中国の情報当局である国家安全部は、中国で45年間勤務していた英国人男性が、海外に違法に情報を提供したとして、スパイ罪で懲役5年の刑を受けたことを明らかにした。裁判終了から数カ月後に突然公開された事実だ。中国は英国で起きた「中国人スパイ事件」の余波を和らげようとしたのではないかとの分析が聞かれる。当時英国警察が議会の研究員をスパイ容疑で取り調べるなど、英国内で中国人スパイ論争に火がついていた。スパイ罪で3年間拘束されていた中国系オーストラリア人ジャーナリストのチェン・レイ氏は昨年10月に釈放されたが、これは中国とオーストラリアの関係が回復した時期とかみ合う。
中国が韓米日の密着と韓半島問題などで韓中関係が複雑化する中、自国内の韓国人を「外交上の人質」として利用し、対中政策の変化を促したり、交渉を有利に運ぼうとしたりする可能性も指摘されている。韓中は半導体、製薬など先端技術分野での交流が盛んだが、それに関与する韓国人技術従事者の安全が危うくなったとの懸念もある。中国はこれまで韓国の技術者やハイレベル人材を誘致するために「スパイ活動」を自粛していたが、今回の事件でそうした慣習は事実上破られた。改正反スパイ法施行初期には、海外の学識者やメディアは同法が中国と関係がぎくしゃくしている日本、英国、カナダなど西側の大国を標的にすると推測したが、予想が外れた格好だ。中国が「技術上の突破」を達成し、先端技術分野における韓国への依存度が低下したことも関係しているとみられる。北京駐在の企業関係者は「中国に対するボイコット運動が起きるリスクがあるにもかかわらず、中国当局が韓国の技術者に対する反スパイ法の適用を強行したことに注目すべきだ」と話した。
外国企業に協力する中国人に対する監視や締めつけは、中国が反スパイ法で狙っている副次的効果だ。米国企業に勤めた経歴がある中国籍女性が昨年12月、スパイ容疑で拘束された事件が代表的だ。女性は居住地のカタール・ドーハを発ち、昨年12月、中国南京の禄口空港で入国する際、突然姿を消した。米国籍の夫によると、チャンさんは家族に「着陸したが、空港から出られなかった」というメッセージを送ってきたという。
中国で愛国主義が広がり、外国人に対する視線がますます険悪になっているということも、中国で活動する韓国人には懸念材料だ。外国記者は中国のことを歪曲(わいきょく)する扇動家で、外国企業関係者は中国の膏血(こうけつ)を絞る資本家や先端技術を狙うスパイだとの見方が蔓延している。長い付き合いがある中国人の事業パートナーや学者から突然会えないと言われた人も少なくない。一部の中国人の間では「外国人すなわちスパイ」という認識も生まれている。国家安全部は最近、大学生にスパイ識別法を教育している。
北京=李伐飡(イ・ボルチャン)特派員