■前大統領、軍事対応で紛争地域化を遮断
インドネシア・カリマンタン島の北西に位置する「北ナトゥナ海」(インドネシア側の名称)は素晴らしい漁場で天然ガスが豊富な、資源の宝庫です。海域の一部は、中国が領有権を主張する九段線と重なっています。そういうわけで、中国漁船がしばしば出没して違法操業を繰り広げています。
ジョコ・ウィドド前大統領は2016年、国際常設仲裁裁判所の判決が出た直後、ここにF16戦闘機を配備し、海軍基地を大幅に拡張しました。中国の違法操業漁船が法執行に服さなければ発砲して沈めたこともあります。19年12月には、中国漁船が自国の巡視船に護衛されつつここに入り込んで操業するという事件がありました。インドネシア政府は中国大使を呼んで強く抗議し、F16戦闘機の編隊を送って武力の誇示を繰り広げました。20年7月には海軍の艦艇26隻と空軍機19機を動員し、大規模な軍事訓練を行ったこともあります。この海域を紛争地域化しようとする中国の試みを早期に遮断していったのです。
「北ナトゥナ海」に入った中国の海警船5402号は南シナ海で紛争があるたびに登場する「常連客」です。20年にマレーシアがルコニア礁付近で石油探査作業を行った際にもこの船が出動し、同年にベトナムの南シナ海石油探査を妨害したときも、この船が妨害作業を主導しました。4400トン級で東南アジア諸国が保有する海軍艦艇よりもサイズが大きい上に、武装まで有しており、踏ん張られると追い出すのは容易ではないといいます。突撃隊長の役割を果たしているわけです。
■「強硬対応の基調が続くのかz」…様子を見るもよう
中国の意図を推察するのは難しくありません。新たに就任したプラボウォ大統領の政権も前大統領時代のように強硬対応を続けるのかどうかを調べてみたのです。ちょうど、新任のシャフリ・シャムスディン国防大臣は10月24日、就任祝いのあいさつのために訪問した王魯トウ・駐インドネシア中国大使と面会しました。シャフリ大臣は、同日発生した中国海警船の侵入事件には触れずに「合同軍事演習を含む国防分野の協力関係を望む」とだけ言いました。主権の守護を公言したBAKAMLAとは全く異なる姿でした。
中国の国営メディアは、この事件をほとんど取り上げませんでした。正体不明の一部のソーシャルメディア媒体が登場して「海警船5402号は追い払われたのではなく、依然としてそこにいる」と主張したそうです。中国外交部の林剣報道官は24日のブリーフィングで「中国の海警船は国際法と国内法に基づいて中国の管轄海域で通常のパトロール活動を行った」としつつ「インドネシア側とコミュニケーションを取り、話し合いながら両国の海上問題を円満に処理することを望む」とコメントしました。
崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長