これとは対照的に、1990年代初めまで米国の戦術核兵器が数百基配備されていた韓国からは、核戦力が全て撤収し、「恐怖の均衡」を保てなくなった。北朝鮮はジュネーブ合意時に「朝鮮半島非核化」を掲げたが、北朝鮮非核化の代わりに韓国の非核化を招いたのだ。今年、「国軍の日」の市街行進後、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)が「核保有国の前ではみすぼらしく稚拙な行為」と言ったのは、こうした状況を反映したものだろう。ジュネーブ合意は2002年にブッシュ政権が高濃縮ウランの問題を提起して破棄したが、「凍結と補償」の枠組みは北朝鮮の核問題に関する6カ国協議に受け継がれた。
北朝鮮外交部の姜錫柱(カン・ソクチュ)第一副部長(外務次官)とジュネーブ合意を作った米国のロバート・ガルーチ大使は、懺悔録を書いてもまだすっきりさせられないというのに、反省の色は特にない。ガルーチは今年5月の済州フォーラムで「金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、既に持っている核兵器を放棄する可能性はないが、これ以上の核兵器は開発しないことには同意することもあり得る」と再び詭弁(きべん)を弄(ろう)した。その上で、韓国に戦術核を再配備するのは「悪い考え」だと反対し、韓国の核武装案には過敏に反応している。ジュネーブ合意が米国の核心利益を扱う問題であったなら、果たして、あのようにお粗末な処理をして恥をかいてもこんなでたらめなことを言えるかどうか気になる。米国の行政府で韓半島の核問題を扱ってきた人々が、ガルーチと大同小異の立場を持っているのは遺憾だ。
ジュネーブ合意という巨大な詐欺劇30周年を迎えて韓国人は、遅まきながらであっても戒めを悟らねばならない。最大の教訓は、このごろ詐欺集団の本性をあらわにした金正恩体制に対する信頼問題だ。これに劣らず重要な教訓は、いくら親しい同盟国であっても、自分たちの運命を左右しかねない核関連の決定を他国に委ねてはならないということだ。
李河遠(イ・ハウォン)外交安保エディター