韓国の情報機関である国家情報院は全国民主労働組合総連盟、昌原、済州の3件のスパイ事件を捜査し、2年前に北朝鮮と関係する100人以上の容疑者を突き止めたが、その後捜査は進んでいないという。国家情報院のスパイ捜査権限を警察に移管する国家情報院法が今年1月から施行されたため、2022年11月の時点で明白な証拠があった被疑者だけを捜査し11人を起訴したが、内偵中だった100人以上は捜査が行えなかったという。当時捜査を指揮した国家情報院の元幹部は「内偵の期間があと2-3年ほどあればスパイ組織の実態を解明できただろう」と語る。スパイ捜査の権限が移管されたため、スパイ組織全体を摘発できなかったのだ。
さらに衝撃的な事実は、国家情報院は100人以上の容疑者リストを確保しているが、これを今も警察に引き渡していないことだ。警察は安保捜査チームを設置するなど、スパイ事件担当部署を新たに立ち上げたが、国家情報院は「経験が不十分な警察の捜査力ではスパイ組織の実態解明は困難」「セキュリティ面でも問題あり」と判断しリストを引き渡さなかったという。この100人以上の容疑者はスパイらとたびたび接触し、北朝鮮にはスパイとして包摂する候補者として報告されていた。彼らは何の監視も受けない状態で今も活動を続けている。
このあってはならない事態をもたらしたのは文在寅(ムン・ジェイン)前政権と野党・共に民主党だ。文在寅政権は2020年12月に国家情報院のスパイ捜査権限を警察に移管する国家情報院法改正案を強行採決し成立させた。今世界では多くの国が情報機関の権限強化に動いているが、韓国だけが逆に国家情報院の重要な機能を無力化した。運動圏(左派の市民学生運動勢力)出身者が中心となっている共に民主党の11人の議員グループは安保関連犯罪に対する国家情報院の調査権を剥奪する法案をも提出している。国家情報院のスパイ捜査機能を事実上、武装解除させることが目的だ。反国家勢力の脅威を受けている国がこんなことをして良いのだろうか。
スパイ事件捜査のノウハウや海外の情報ネットワークは短期間で構築できるものではない。上記3件のスパイ事件被疑者らは主に海外で北朝鮮工作員と接触しており、国家情報院は彼らを7-8年前から捜査してきた。このような捜査が可能な理由は、国家情報院の捜査官らが長い期間同じ職責で勤務し、専門性を積み上げてきたからだ。これに対して警察はいくら捜査したくてもたびたびの人事で長期の捜査が難しいという限界がある。
今こそ国家情報院法を改めて改正し、一日も早く国家情報院の捜査機能を回復させねばならない。共に民主党の反対で原状回復が難しいのであれば、国家情報院と警察のスパイ捜査担当者が協力し、スパイ捜査庁を設置するなど新たな対策が必要だ。