今年11月に予定されている米国大統領選挙を前に民主党は新たな政策綱領を採択したが、そこに「北朝鮮の非核化」は盛り込まれなかった。2020年に作成された既存の政策綱領には北朝鮮について「同盟国との連携や持続的な外交を通して、長期的な非核化の目標を目指す」との記載があったが、今回これがなくなったのだ。先月発表された共和党の政策綱領にも韓半島や北朝鮮への言及はもちろん、非核化という言葉さえなかった。北朝鮮の核とミサイルの高度化が続く中、米国が進めてきた北朝鮮非核化はもはやその原動力を失ったかのようだ。
識者の間からは「どちらが政権を取っても、次の米国政府は北朝鮮の非核化ではなく、核軍縮を目指す北朝鮮との交渉もいとわないという意味では」などの懸念も浮上している。核軍縮とは「北朝鮮が核兵器を保有した状態での制裁解除」を意味する。特にトランプ前大統領が再び大統領に就任した場合はそうならない保証はなく、北朝鮮は韓国を思い通り揺さぶろうとしてくるはずだ。核保有国として韓国よりも上の立場に立つという北朝鮮の執念が実現するのだ。これは韓国にとって国の存亡を揺るがす危機的状況と考えねばならない。
韓国と米国は昨年「ワシントン宣言」に基づき核協議グループ(NCG)を発足させ、先月には米国の核兵器と韓国の在来兵器が連携対応する「一体型拡張抑止」と言われる核作戦指針に合意した。現在行われている韓米合同軍事演習「乙支フリーダム・シールド」では北朝鮮の核攻撃を想定した訓練も初めて実施されている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、米国の核の傘が以前よりも強化されたのは事実だ。しかし「決定的瞬間にソウルを守るためニューヨークを犠牲にするのか」との問いに米国は回答できないはずだ。
北朝鮮は今この瞬間にも核兵器を製造している。韓国軍合同参謀本部は2年前「北朝鮮は2027年ごろに200基以上の核兵器を保有するだろう」との予測を公表した。しかしその時期はすでにかなり前倒しされたことも考えられる。これが現実となった場合、米国は北朝鮮の非核化ではなく韓国の核武装阻止に力を入れる可能性が高い。核兵器を持たない韓国は北朝鮮はもちろん、より多くの核兵器を持つ中国やロシアの脅威も受けることになる。北朝鮮とロシアは一方が攻撃を受けた場合の自動介入を定めた事実上の同盟条約にも署名した。このような状況で米国の民主党・共和党のいずれも政策綱領から「北朝鮮非核化」を消し去った現実は重く受け止めるべきだ。あらゆる可能性を念頭に自分たちを守る方策を見いだしていかねばならない。