147万人が請願した「文在寅弾劾」【コラム】

 弾劾とは憲法の力で公職者を追放する恐ろしい制度だが、韓国では混濁の世でありふれた政争の小道具になってしまった。国会改選後の2カ月で共に民主党などが発議した弾劾案は7件に上る。放送通信委員長は任命前の段階でターゲットになり、就任翌日に弾劾案が発議された。どれだけ人物に過ちがあるとしても、たった一日で弾劾されるほど「重大な憲法・法律違反」を犯すことが物理的に可能なのかという抗弁が出るほどだった。

【表】第22代韓国国会で共に民主党が推進した弾劾案

 民主党の李在明(イ・ジェミョン)元代表や同党を捜査した検事4人も弾劾リストに名を連ねた。ある検事は当事者も否認している被疑者との不適切な関係などが弾劾事由として指摘されたが、添付された証拠資料はマスコミ報道4件だけだった。他の検事については、飲酒して醜態をさらした疑惑などを問題視した。たとえ事実でも到底弾劾の対象にはならない理由だった。 既に嫌疑なしと結論が出た韓明淑(ハン・ミョンスク)事件の虚偽陳述疑惑、甚だしくは偽装転入まで弾劾事由に入った。 重大な事案に使われるべき弾劾の刀が、些末なことに使われる包丁同然の存在になってしまった。

 民主党と祖国革新党は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾作戦にも突入した。「残り任期3年は長い」とばかりに弾劾調査聴聞会を開き、情報提供センターまで開設した。民主党は弾劾聴聞会の根拠として国会請願を掲げた。尹大統領弾劾案の発議を求める請願に143万人余りが同意した以上、国会が回答しなければならないという論理だ。

 4年前にも当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾を求める国民請願があった。これには147万人が同意し、民主党が盛り上げた尹大統領に対する弾劾請願より約4万人多かった。しかし、当時野党だった自由韓国党は請願を理由とする弾劾を考えなかった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領弾劾時に逆風にさらされたトラウマもあるだろうが、厳格であるべき弾劾をむやみに行おうという発想自体がなかったためだろう。

 文大統領の任期中に弾劾請願は2回あった。147万人が同意した請願は、コロナ初期の2020年初め、文政権が中国人の入国を防がず、自国民の保護を怠ったという理由で発議されたものだった。その前年の2019年には北朝鮮の核を放置・黙認したことと国家情報院の対共捜査権剥奪を理由に挙げた弾劾請願に25万人が同意した。弾劾要件に該当するかどうかは別として、いずれも国民の怒りを買うに値する事案だった。

 それは氷山の一角に過ぎない。文政権が犯した蔚山市長選介入は、憲法が定める弾劾の定義に合致する重大犯罪だ。文大統領の30年来の友人を当選させようと、青瓦台の8つの部署が総動員された容疑が明らかになった。青瓦台のブレーンたちは大統領が推す候補の公約を支援し、警察は虚偽の情報提供を根拠にライバル候補に対する捜索に踏み切った。民主主義システムを破壊する深刻な憲法蹂躙(じゅうりん)だったが、それでも当時の野党は弾劾というカードを切ることができなかった。

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  • ▲2017年に中国を訪問した文在寅大統領と金正淑夫人が北京市内のレストランで盧英敏(ノ・ヨンミン)駐中大使と朝食を共にしている/聯合ニュース

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