代表例として自動車市場を見てみましょう。「日本車の庭」と呼ばれるインドネシアでは現代自動車のシェアは6位にすぎません。フィリピンでもトヨタ、三菱自動車、フォードなどに押され、現代自動車は8位にとどまっており、タイでは10位圏内にすら入ることもできない状況です。ところが、ベトナムでは現代自動車がトヨタを抜いてシェア1位の座を占めました。3位の起亜のシェア(11%)も合わせると、ベトナム自動車市場の30%を現代・起亜が占めています。配車サービスのグラブを呼べば、現代自が海外戦略モデルとして発売した小型車「i10」がやってきます。韓国国内で言えば、「モーニング」のような外観ですが、バイクが道路を占領するベトナムでは入り組んだ道を抜けるのに最適なサイズです。
では何が問題なのでしょう。それはベトナムにラブコールを送っているのは韓国だけではないということです。昨年9月、アメリカとベトナムが過去10年間維持してきた「包括的パートナーシップ関係」を2段階高め、「包括的戦略的パートナーシップ関係」に格上げしました。中間段階の戦略的パートナーシップ関係を完全に飛び越えたのです。
アメリカとベトナムの関係が電撃的に格上げされると、中国がベトナムに駆けつけました。3カ月後の12月、中国の習近平国家主席がベトナムを訪問し、両国関係を「未来を共有する共同体」に発展させ、経済、安全保障、社会、文化などの分野で36件の合意に至りました。
相次ぐラブコールに2023年はベトナムの外交原則である「竹外交」がいつにも増して輝いた一年と評されます。長く困難なベトナム戦争を経験したアメリカとも、韓国や日本のように東海(ベトナムにおける南シナ海の呼称)問題に直面する中国とも「実利的」な協力は構築していく姿勢を見せたのです。
なぜ急にベトナムは各国の「お近づきになりたい友」になったのでしょうか。ベトナムを安い人件費とそれに基づく生産拠点がある「ポストチャイナ」ぐらいに認識しただけでは、そんなラブコールを理解するのは困難です。
ベトナムは中国をけん制できる地政学的な安全保障上の要衝であるだけでなく、国際サプライチェーンでも戦略的な位置を占めます。このため、5月にフランスの国防相もベトナムを訪れ、両国間の国防協力強化に向けた意向書に署名し、オランダも昨年、ベトナムと国防・安全保障協力を拡大することを決めました。
韓国企業がベトナムのチン首相を歓迎した理由は、ベトナムが国際サプライチェーンでも中心的な国に浮上したからです。中国が原因のヨウ素水騒動を経験した韓国は、ベトナムからヨウ素水を輸入し、急場をしのぎました。最近ベトナムが「21世紀の石油」と呼ばれるレアアース埋蔵量で世界第2位だということが知られるようになり、中国に代わるレアアースのサプライチェーンとして注目されています。電気自動車のバッテリーなどに必要となる重要な鉱物です。