「ネクタイを締めたコッチェビ」 月給0.3ドルで働く北の外交官たち【萬物相】

 最近北朝鮮で給与がしっかりと支払われ、配給が出る唯一の職種は軍需工場だという。今年5月には年末までの8カ月分の食料が一気に配給されたそうだ。ロシア特需により砲弾需要が一気に高まったためで、全国の主要な砲弾工場では昼も夜も工場が稼働しているという。他の企業所はどこも開店休業状態と伝えられるため、砲弾工場だけは完全に事情が違っているようだ。最近金正恩(キム・ジョンウン)総書記が最もよく視察するのも軍需工場だ。昨年は10回、今年もすでに7回視察した。

 かつて北朝鮮では開城工業団地(工団)で多くの仕事があったため、開城の住民は羨望の対象だった。当時120社以上の韓国企業が支払っていた給与は1人当たり平均120ドル(現在のレートで約1万8000円、以下同じ)だったが、北朝鮮当局はドルを全て取り上げたため、従業員への給与は北朝鮮通貨などで支払われた。それでも一般労働者の給与に比べると1.5-2倍だったという。給与以外にも北朝鮮の市場ですぐ金になるチョコパイが4個ずつ支給された。このような待遇の労働者が当時5万5000人に達した。そのため開城では当時足腰が立つ大人はみんな工団で働いていたという。

 北朝鮮ではこのような「神の職場」は非常に珍しい。工場や企業所の90%以上は毎月の給与が1ドル(約160円)に満たず、これでは1キロの米も買えない。しかも給与が支払われないのも今やごく普通だという。そのため誰もが商売を始めているが、男性は職場に出勤しなければ労働鍛錬隊に送られるため、実際に商売をするのは主に女性で、女性たちは商売をして夫の給与の10倍、100倍を稼ぐこともあるという。ただ最近は男性も職場に金を払ってひそかに商売をしているという。職場が給与を支払うのではなく、従業員が職場に金を払うのが北朝鮮だ。職場も実はやることがないので、それとなく後押ししている。このような状況を「8・3稼ぎ」というが、この言葉はかつて家内制手工業が奨励された「8・3措置」から来ている。

 ただし北朝鮮の公務員は市場での商売さえも難しい。昨年韓国に亡命した在キューバ北朝鮮大使館のリ・イルギュ政務担当参事官は先日のインタビューで「北朝鮮外務省副局長だった時の給与は月3000ウォン、0.3ドル(約47円)だった」「ネクタイを締めたコッチェビ(浮浪児)と呼ばれた」と語った。給与だけでは生きていけないのだ。海外に赴任すれば少しは良くなるが、それでも大使でさえ給与は600-1000ドル(約9万4000-15万6000円)だ。しかも大使館の運営に必要な経費は自分たちで稼がねばならない。故・金日成(キム・イルソン)主席の誕生日などには忠誠資金も上納しなければならず、やらなければクビになる。そのため密輸や密売などの不法行為は彼らにとってはごく普通だ。

 北朝鮮外交官たちは麻薬、金塊、偽造紙幣などを流通させている。アフリカでは象牙を、キューバではシガーを荷物に入れて運び、摘発されるケースも全く珍しくない。外交用の荷物ではなく密輸用の荷物だ。これでドルが手に入ればラッキーだ。そのため密輸が簡単な開発途上国は陽地、それができない先進国は険地だ。全てが不条理で、あり得ないことばかりの北朝鮮だが、それでも給与が0.3ドルとは驚きだ。

李竜洙(イ・ヨンス)論説委員

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