朝鮮王朝時代には発酵させて生物兵器化…北の汚物風船に見る「人糞攻撃」の歴史(下)

朝鮮王朝時代には発酵させて生物兵器化…北の汚物風船に見る「人糞攻撃」の歴史(下)

■人糞戦闘を繰り広げる北朝鮮の貴重なうんこ

 北朝鮮はなぜ、人糞を送ったのだろうか? 北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長は、対南汚物風船について「自由民主主義の亡霊に届ける心のこもった誠意の贈り物」であって、表現の自由だとする談話を発表した。「引き続き、拾い上げなければならないだろう」「今後、韓国のやつらがわれわれに散布する汚物量の数十倍で対応する」とも述べた。

韓国国会で人糞がぶちまけられた「事件」を報じた新聞記事(1966年)

 「心のこもった贈り物」という言葉が本気であるはずはないが、北朝鮮で人糞が貴重であることは事実だ。化学肥料がなく、人糞を肥やしとして使っているからだ。毎年初めに、人民に糞便集めの課題を下達する「人糞戦闘」も繰り広げられる。工場・企業所労働者は1人当たり重さ500キロ、人民班は世帯当たり150キロの堆肥課題を10日間遂行しなければならないとか。目標を達成できないと処罰されかねないので、人糞を盗む泥棒もおり、不意の信号もぐっと堪えて家まで走り、用を足す。人糞の価格は100キロで1700ウォンから3400ウォンという水準。コメ3-4キロを買える価格だ。

 肥料だけでなく駆虫剤も不足している北朝鮮で、人糞は寄生虫感染の媒介体となっている。2017年に板門店の共同警備区域で韓国側に亡命した北朝鮮軍兵士の体内からも、30匹の寄生虫が見つかった。最も長い回虫の体長は27センチもあった。感染した人の排せつ物が、土を通して野菜に付着し、この野菜を摂取した人が再び感染するという悪循環だ。

 実質的な脅威というよりは「感情的攻撃」に近い。韓国国内の糞尿研究の権威で、「うんこ博士」という別名で呼ばれるパク・ワンチョル韓国科学技術院(KAIST)名誉研究員は「伝染病がまん延する際には糞便で伝染病が広まることもあり得るが、韓国は先進国にも劣らぬ汚水処理技術を持つ国なので、すぐに糞尿処理ができる」とし「糞毒(糞便によって発病する皮膚疾患)にかかるほど量は多くもなく、実質的脅威にもならないが、糞便が持つ『嫌悪感』を鼓吹しようとしたようだ」と語った。

 糞便は依然として、精神的に致命傷を与える存在だ。「頭にクソしか詰まってない」という非難は、知的判断ができない禁治産者扱いをするもので、「クソ間抜け」とは間抜け過ぎて糞便並みに間抜け、という強調表現。「ああ、お前のクソは太い」「クソ度胸」とは、折れない固執に対する屈服の表現でもある。平凡な単語も、「クソ」を付けると否定や嫌悪になる。軍隊や職場などでのパワハラやいじめは「クソ軍紀」という単語でその深刻さが増し、「クソ手」という表現は「才能がない」という事実を生まれたときから定められた気質のように感じさせる。

 だが韓国は、国内に4397カ所(2022年現在)の公共下水処理場がある国。人口の96.7%が下水処理サービスを利用している。臭いうんこも、下水処理場を経ればきれいな水に変わる。感情を攻撃するうんこは、耳をふさいで防御できる。うんこは、怖いから避けるものではない。汚いから避けるもの。きょうもさわやかに快便を!

李美智(イ・ミジ)記者

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