韓国社会の「男児選好」が招いた報復【萬物相】

 自然界で生殖可能な個体の雌雄の性比は、長期的に見ればおおむね1対1になるという。進化生物学ではこれを「フィッシャー(Fisher)の原理」と呼ぶ。ヒトの自然性比は女児100人に対して男児104-107人の範囲だ。男児を作るY染色体を持つ精子の方が、女児を作るX染色体を持つ精子よりも軽くて早く、受精に有利だからだ。しかし、男児の平均死亡率は女児より少し高く、青少年期を過ぎると次第に1対1に近づくという。

【グラフィック】地域別の性比不均衡の割合

 ところが、韓国の新生児の性比はこうした進化の規則から30年近く外れていた時期があった。1970年代から2006年まで、自然性比よりも男児がかなり多く誕生した。男児選好に加え、出産前の性別が分かる超音波検査のせいだ。1990年には性比が女児100人に対して男児116.5にまで跳ね上がった。特に、第三子以上の性比は1994年に206.9を記録した。奇怪な現象だった。

 一人っ子政策を長く続けた中国は、韓国より状況が深刻だ。中国の新生児の性比は2010年ごろ120近くに跳ね上がった。その余波で、未婚または交際相手のいない男性があふれ、彼らを指す「光棍」という言葉もできた。「光」は「~だけ」、「棍」は「棒」という意味なので、「葉や枝がなく枯れた枝、棒が1本だけ=独身者」ということになる。この単語は米国の「ブラック・フライデー」と並ぶ世界最大のショッピング・シーズンとして定着している「光棍節」にも使われている。

 韓国では男児選好傾向がほとんどなくなり、2007年以降は自然性比に戻った。男児選好傾向が強かったため、親に胎児の性別を知らせることを禁じた法規定も必要なくなった。今では産婦人科医が超音波検査後、「青い服を買ってくださいね」「赤ちゃんはお母さんに似ていますね」などと、それとなく胎児の性別を伝えることもなくなった。

 ところが、かつてのこうした深刻な性比不均衡が今の社会に「報復」を始めた。韓国保健社会研究院は「過去の男児選好の影響により、2021年基準で韓国の未婚男性は未婚女性より約20%多い」という調査結果を発表した。これは人口構造上、男性の6人に1人は結婚できないという意味だ。20-30年前の間違った社会風習が、今になって深刻な影響を及ぼし始めたとは、あらためて驚くべきことだ。同報告書は「出生性比の不均衡が今後も相当期間、結婚の実態に大きな影響を及ぼす可能性がある」としている。出生性比の不均衡の報復は始まったばかりだが、今の少子化問題が今後20-30年後にどのような報復をしてくるのかが心配だ。専門家らは「国家と社会が崩壊する恐れもある」と言っている。

キム・ミンチョル記者

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