北朝鮮の兵士たちを驚かせる韓国のありふれたもの【萬物相】

北朝鮮の兵士たちを驚かせる韓国のありふれたもの【萬物相】

 北朝鮮との国境に近い中国国内で、朝鮮族が経営する飲食店などに韓国政府が韓国のテレビ番組が見られる装置を無料で設置した。口コミが広がり、朝鮮族だけでなく、中国で暮らす北朝鮮の住民も集まり始めた。北朝鮮の住民が最も驚く韓国の番組は『6時、私の故郷』だという。北朝鮮の農村では毎年、餓死者が続出している。ところが、韓国の農村では食べ物があふれ、一般の農民も自家用車を運転している様子を見て、目を丸くするそうだ。韓国ドラマは虚構の可能性があるが、農村の姿を毎回、偽物で撮影することはできない。ある脱北者は「南北の農村の差は天国と地獄のようだった」と言った。

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 また、動物園や全国のど自慢の放送を見ても驚くという。北朝鮮の住民の大多数は一生バナナを食べることがない。しかし、韓国の動物園ではサルやゾウがバナナなど熱帯の果物をたくさん食べているからだ。全国のど自慢に出演する人々はどう見ても特権層ではないのに、北朝鮮の朝鮮中央党幹部よりいい服を着てステージを駆け回る。お笑い番組で韓国大統領が戯画化される様子などは気絶レベルだ。外界と遮断された監獄で暮らす北朝鮮の住民たちは韓国の平凡な日常にいっそう衝撃を受ける。

 休戦ラインに配置されている北朝鮮軍の兵士は50万-60万人。17歳で入隊し、10年ずつ服務する。遊びたい盛りなのに、ラジオを手にするのも難しい。韓国の拡声器を通した北朝鮮向けの宣伝放送で楽しいダンスナンバーが流れると、肩が自然に動く。お気に入りの歌ができて1年ほど経つと、放送時間を待つことになる。金正恩(キム・ジョンウン)総書記の暴政や隠された家族関係などを放送しても、最初は信じないそうだ。ところが、北朝鮮向けの宣伝放送から流れる天気予報が正確に当たったり、北朝鮮のサッカー代表チームの試合結果などをリアルタイムで知ったりすると、宣伝放送の内容を信じるようになる。2011-16年に鉄の柵を越えてきた北朝鮮軍兵士は9人いたが、そのうち4人が2015年の宣伝放送再開後に柵を越えてきた。

 韓国軍が6年ぶりに拡声器による宣伝放送を再開し、男性アイドルグループBTS(防弾少年団)などの歌や天気予報、北朝鮮内部で取り引きされているコメ・トウモロコシ・ドルの価格などを流した。最前線の北朝鮮軍兵士たちは6年前のように韓国の天気予報を聞いて洗濯物を干し、韓流スターの歌を口ずさむだろう。そして、今後は故郷の市場(いちば)の物価まで拡声器を通じて確認することになる。

 今の北朝鮮軍兵士の多くは2000年代生まれだ。慢性的な経済難の中で、朝鮮労働党ではなく市場で売られている食べ物で生きることができると気付いている世代だ。そして、入隊前から韓流を楽しんでいる。金正恩総書記が「韓国ドラマを見たら脊椎(せきつい)を折って殺す」などと狂気の言葉を発するのは、この新世代の目や耳を覆うためだ。しかし、人の目や耳を永遠に隠すことができるはずもない。

安勇炫(アン・ヨンヒョン)記者

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