F35配備基地を一望できるスイスの山荘を買収した中国人家族に向けられた疑いの眼差し

 ワン·ジン夫妻がホテル・レスリーを購入する当時、中国国家安全部のスイス国内におけるスパイ活動は最高潮に達した。スイス連邦情報機関(NDB)は、ロシアよりも多くの中国のスパイが科学者、記者、事業家に偽装して活動しているという報告書を出している。2020年には中国人従業員が新たにこの山荘に来て、永住権もなしに就労した。

 米国は約17兆ドル(約2675兆円)をかけて開発した「現代空中戦の帝王」F-35の機密保持を徹底している。戦闘機が収集した情報を処理する操縦士ヘルメットをはじめ、機体のほぼ全てがトップシークレットだ。米国ではジェットエンジンを撮影することも禁止されているという。

 中国は過去約10年間にわたり、F-35に採用された先端技術の入手に必死だった。2015年には中国のハッカーがF-35の製造元である米防衛大手ロッキード・マーチンからテラバイト級のデータを盗み出した事実がその後明らかになった。中国は2017年、F-35の技術を一部コピーしたと推定される初の第5世代ステルス戦闘機J-20(殲-20)を披露した。

 このため、米情報当局はF-35が配置されるマイリンゲン基地に隣接するホテルを購入した問題の中国人夫妻の観察を続けた。そして数年間にわたり、スイスの情報当局にその事実を知らせたが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でも欧州連合(EU)加盟国でもない中立国スイスの反応は鈍かった。スイスの情報機関の中国担当要員は5人にすぎなかった。

 結局、米国は昨年、スイスに対し、「マイリンゲン基地周辺の保安が大幅に強化されるまではF-35を配備できない」と通告した。

 同年7月26日、NDBの要員がホテル・レスリーを捜索し、中国人家族3人は連行され取り調べを受けた。しかし、スパイ容疑は立証できず、観光ビザでホテルで就労した容疑で5400ドルの罰金を科すにとどまった。ホテルの玄関には「閉鎖」という紙が張られた。

 WSJは「その後行方が明らかになっていないワン・ジン氏家族3人は現在、中国の新興富裕層が住む北京北郊の『ドラゴンビラ』に住んでいる」と報じた。北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男で、2017年にクアラルンプール空港で暗殺された金正男(キム・ジョンナム)氏が住んでいた場所でもある。しかし、息子のワン・ダーウェイ氏はターゲス・アンツァイガーに対し、「スパイ云々はフェイクニュースであり、再びスイスに戻るつもりだ」と話した。

 スイスの情報要員と警察による捜索から間もなくして、インターネットには問題のホテルの販売広告が掲載された。希望売却価格は180万ドル。あるスイス人が購入意向を表明したが、銀行融資を受けることができなかった。

 ワン氏夫妻によるホテル購入は、10年先を見据えて最先端戦闘機F-35の機密を入手しようとする中国スパイ機関の投資だったのだろうか。ワシントンの中国大使館はWSJに対し、「米国が根拠もなく中国のイメージを貶めようとしている」と述べた。村人の意見も分かれる。住民の多くは「米国が過度に干渉している」とWSJに語った。

 明らかなことは、F-35をめぐる米中軍事諜報戦争がスイスのアルプスの山奥にまで広がったということだ。

 今年1月、ウンターバッハ飛行場委員会は「ホテル・レスリー」の新しいオーナーの通知を受けた。購入者はスイス軍だった。購入条件は公表されていない。

イ・チョルミン記者

【写真】「現代空中戦の帝王」とも呼ばれる米のF-35ステルス戦闘機と中国のJ-20戦闘機

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