客観的事実よりも金正恩総書記の言葉を信じるという文在寅・前大統領【5月20日付社説】

 北朝鮮が複数の弾道ミサイルを東海に向けて発射したまさにその日、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の回顧録の販売が始まった。文前大統領は同書で「北朝鮮制裁を解除するには(米朝の間で)より積極的に仲裁すべきだったと後悔している」との考えを示した。北朝鮮への制裁を強く主張する欧州の首脳に制裁解除を求め、国際社会で自ら面目をつぶしたのが他でもない文前大統領だが、本人はそれでも不十分だったと自らを責めているのだ。シンガポールで行われた米朝首脳会談については「北朝鮮による核実験・ミサイル発射実験と韓米合同軍事演習の同時中止について口頭で合意に至った」と主張し「それを宣言文に入れておけば…」とも嘆いている。北朝鮮と中国は「北朝鮮による不法な挑発行為」と「韓米両国による合法的な防衛訓練」の対等な取引を要求したが、それを文書に残せなかったことを残念がっているのだ。

【写真】白頭山の頂上で握り合った手を掲げる文在寅大統領と金正恩委員長(肩書は19年当時)

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記について文前大統領は同書で「『核を使用する考えは全くない』『娘の世代にまで核を頭に乗せて生きるようにはできない』などと語っていた」と伝えた上で「(米国による)それ相応の措置さえあれば非核化に応じるという金正恩総書記の約束は本心だったと思う」との考えを示した。ところが北朝鮮は当時から核兵器とミサイル技術の高度化に力を入れていた。さらに文前大統領によると、金正恩総書記は「中長距離ミサイルは保有していない」と発言したそうだが、現実は「非核化ショー」が終わると同時に金日成(キム・イルソン)広場での軍事パレードに登場したICBM(大陸間弾道ミサイル)が地上から打ち上げられた。これは紛れもない事実だ。

 文前大統領は「客観的な事実」よりも「金正恩総書記の言葉」に信頼を寄せており、その姿勢は回顧録の最初から最後までぶれていなかった。金正恩総書記が約束した「韓国訪問」「直通電話の設置」「電子メールによるやりとり」などは一つも実現していないが、それでも文前大統領は北朝鮮が抱える事情故に理解を示している。「金正恩総書記は『延坪島砲撃事件で苦痛を受ける住民を慰労したい』と述べた」とか、親書で「(爆破した)南北連絡事務所再建問題の協議」の提案を受けたとする逸話も紹介した。外交におけるレトリックとその言葉の真の意図を区別できないことを文前大統領自ら認めているのだ。

 妻の金正淑(キム・ジョンスク)氏による2018年のインド訪問については「事実上の旅行だった」と今も指摘されているが、これについて文前大統領は「悪意のある歪曲(わいきょく)」と反論した。しかし当時の政府文書を確認すると、インドは本来金正淑氏ではなく文化体育観光部(省に相当)長官の訪問を希望していたという。金正淑氏は大統領専用機を使ってインドに出向き、有名観光地のタージマハールなどを訪問し、他の観光客を近づかせず一人で記念写真を撮影した。これは公式日程にはなく、文化体育観光部が後から提出した報告書にも記載されていなかった。インド訪問におけるこの種の疑惑は一つや二つではないが、文前大統領はこれを「初の配偶者単独外交」と自画自賛した。金正淑氏による「外交に名を借りた旅行疑惑」も必ず解明しなければならない。

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
関連フォト
1 / 1

left

  • ▲ソウル市鍾路区の教保文庫光化門店に並べられた文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の回顧録。タイトルは「辺境から中心へ」。19日撮影。/ニュース1

right

あわせて読みたい