韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、民情首席室を新設して検察出身の金周賢(キム・ジュヒョン)元法務次官を首席秘書官に任命した。大統領就任時、司法機関の掌握手段として悪用するつもりはないとして廃止した民情首席室を、民心聴取機能強化のためにわずか2年で復活させたのだ。
尹大統領は金首席の人選を自ら発表し「民心聴取機能があまりに脆弱(ぜいじゃく)で、大統領に民心伝達がうまく行われていないと考え、悩んだ末に復活させることになった」と語った。金首席も「政策の現場から、国民の不満や問題点を国政にうまく反映するようにしたい」と語った。大統領室はこれまで、金建希(キム・ゴンヒ)大統領夫人の「ブランドバッグ授受疑惑」や海兵隊のチェ上等兵殉職事件に安易に対処し、医学部定員増問題の対国民談話の過程で民心に背く判断をした、という指摘を受けてきた。民情首席室がこれを正し、民心をきちんと収集・反映することを望む。
だが新任の首席に、民心聴取にふさわしい人物ではなく検事出身者が任命されたことを巡り、「検察や警察、国家情報院(韓国の情報機関)などをコントロールして大統領周辺の司法リスクに対応するためのものなのではないか」という疑念も生じている。民情首席傘下の新任の公職紀綱秘書官や法律秘書官も検事出身者だ。尹大統領は「情報を扱う仕事なので、過去の政権でも法律家、ほとんどは検事出身者が引き受けていた」と語った。「司法リスクが提起されることがあれば、私がそれを解くべきであって、民情首席のやる仕事ではない」とも述べた。
民心伝達が目的ならば、政治家や市民団体出身者の方がふさわしいこともあり得る。検察出身者ではない法律家も大勢いる。このところ韓国政界では、金夫人の捜査問題などを巡って大統領室・検察間の対立説も持ち上がった。イ・ウォンソク検察総長(検事総長に相当)は、金夫人のブランドバッグ授受疑惑に関する専担捜査チームを作って迅速かつ徹底して捜査せよ、と指示した。
韓国の歴代政権は、民情首席を通して権力機関を管理・統制しようとした。民情首席は主要事件の捜査情報を収集して大統領に上げ、大統領の考えを検察・警察に伝えたりした。文在寅(ムン・ジェイン)政権では曺国(チョ・グク)元法相問題、蔚山市長選挙違法関与、月城原発捜査などに介入した疑惑を持たれた。
尹大統領は「大統領に民心伝達がきちんと行われていないと思う」と発言したが、金夫人の事件やチェ上等兵の問題など各種の事案についての民心は、メディアだけを見ても限りなく表出してきた。重要なのは、大統領がこれを受け入れるのか、という点だ。民情首席室が検察の捜査に関与せず、民心聴取と報告に全力を挙げてくれればと思う。